【10/2更新】何の理由もなく不安で、ふさぎ、居心地が悪く、退屈だ、これぞ人間存在の根本心境である。山崎文庫の日誌 2021年9月

東京・赤坂(港区)で営業するバー「山崎文庫」。その店主である、山崎耕史氏によるFacebookの投稿をまとめた。文章と写真は、山崎氏の許可を得て転載している。当記事の内容は山崎氏個人の見解である。(編集部)

9/2(木)
柄谷行人は『探究』で他人を他者と異者に峻別した。自己が同化(崇拝か棄却、隷従か支配)できる他人は異者である。それに反して、いかなる手段をもってしても同化できない他人は他者である。柄谷は他者から逃走するな!他者に向き合え!その対話だけがダイアローグである、と啖呵を切った。若い頃、その文章に痺れた。熱狂した。しかし、現実的に他者と向き合う、激烈な緊張関係に留まることほど至難なものはない。SNSが社会全般に普及した今日、他者とのダイアローグは簡単に拒否できる。ブロック、ミュート、削除すればいいのだから(私もしょっちゅうやる)だから今こそ柄谷行人を読まねばならないのではないか!!たとえどれほど柄谷行人が現実的に排他的であろうと「探究」の原理は崇高ではないか!
なーんて雨の木曜放言でした。
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9/26(日)
何の理由もなく不安で、ふさぎ、居心地が悪く、退屈だ、これぞ人間存在の根本心境である。何かが不足してこの根本心境に苛まれるのではない。理由付けは゛常に既に〟事後的合理化であり、倒錯にすぎない。とにかく我々は先験的に不機嫌なのだ。これぞハイデガー不滅の洞察である。24時間365日、人生にぎっしり予定が詰まっていて、寸分も立ち止まることがない、回遊魚のような人を見ると複雑な気持ちになる。羨望と軽蔑が入り混じるからだ。お前らハイデガー読んでねえだろ!存在論的不安から逃亡、頽落してんじゃねえよ、と。しかし、何かに、誰かに没頭(頽落)できるほど幸せなのことはないのではないか、ハイデガー的不安なんぞ直視しないほうがいいのではないか。若い頃、『存在と時間』を読んでから常に揺れ動くこの私である。無論、基礎的存在条件の充足が大前提の話ではあるが。本日は、退屈しのぎに、iPhone13に機種変更、頽落してみました!ヨドバシカメラにて!
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9/30(木)

本書は2018年東海道新幹線車内無差別殺傷事件の犯人を取材したノンフィクションである。世間も法廷も犯人を精神異常と断罪し、排除し、安心した。しかし、著者は「正解のなさにどうにも気が滅入」りながら、わかりやすい紋切型のイメージや物語を徹底的に拒絶した。ひたすら謎は謎として残したまま、その苛立ちに耐えた。
私は偶然性、他者の他者性に向き合うその愚直で誠実な姿勢に脱帽した。(無論、家族不適応殺と題されているが家族関係に原因を還元していない)
「無差別殺人犯も語る言葉を持っているのではないか」まさに本書を読むと彼の「言葉」が突き刺さってきた。もう本なんか読まない私ですら、読み出したら止まらなかった。こんな読書体験はいつ以来か。皆さま、インベさんの力作、ぜひご一読ください!

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