Judas Priestと出会った頃の話

3月1日にFacebookで書いたらそこそこ反響があったので、単独の記事にしてみた。(杉本憲史)

ハードロック/ヘヴィメタルの世界に入門して間もない中学2年のとき、雑誌やインターネットでイギリスに〝メタルの神〟と呼ばれるバンドがいることを知った。

その名はJudas Priest(ユダの司祭)。なんとミステリアスで魅惑的なバンド名であることか!

さっそく中古CD屋を巡り、最初に手にしたアルバムが「Sin After Sin」(1977年)と「Turbo」(86年)だった。

楽曲のキャッチーさには惹かれたが、正直なところ、最初に抱いた感想は釈然としないものだった。
〝メタルの神〟などというイカつい通り名から想像していたイメージとはかけ離れた、とてもヤワなサウンドに感じられたからだ(当時は、まだ時代性を考慮に入れられるような耳は持ち合わせていなかった)。

それでもメゲずにレコード屋を巡り、代表作とされている「Painkiller」(90年)を入手した。

ヘヴィでアグレッシヴな演奏に、喉まで金属でできているかのようなハイトーンのシャウト。「おお! これぞまさしくメタル・ゴッドの仕事だ!」
伊藤政則氏の暑苦しすぎるライナーノーツにも感化され、神棚に飾って毎日拝み倒さんばかりに、この背徳的な司祭たちの信奉者となった。

さらなる名作を求めた俺は、名盤と名高い「British Steel」(80年)を手にした。

期待で海綿体をパンパンにしながらディスクをプレーヤーにセットし、スピーカーから飛び出してきた音を浴びた瞬間、ズッこけた。
代表曲とされている“Metal Gods”も“Living After Midnight”も全然格好良くなかった。“You Don’t Have To Be Old To Be Wise”や“The Rage”などの地味めな曲にいたっては、理解不能である。
血気盛んな中学2年に、この音の隙間を解せよというほうが酷だった。

なによりも当時の俺を混乱させたのは、全然毛色の違う上記4枚の作品が、同じバンドによってつくられたものであるということだ。
ジャケットのテイストも違うし、Rob Halfordの歌唱法もそれぞれの作品でまったく異なるので、同じ人物が歌っているということも信じられなかった。

個々の作品には「点」として接してそれぞれ(色んな意味で)衝撃を受けたが、これらを「線」で結ぶことができなかった(念のため断っておくと、その後はこれらの作品を繰り返し聴き込み、全曲を脳内再生できるほどにお気に入りとなった。いわゆる正統派メタルのバンドでは、Judas Priestが一番好きである)。

2大傑作とされている「Screaming For Vengeance」(82年)と「Defenders Of The Faith」(84年)、スタジオ盤のなかで一番好きな「Killing Machine」(78年、ライブ盤を含めるなら翌年の「Unleashed In The East」がマイベスト)、バンドを嫌いになりかけたけど嫌いになれなかった問題作「Jugulator」(97年)などに出合うのは、もう少し先の話だ。

出会う盤出合う盤に翻弄され、衝撃を受けたりクエスチョンマークを浮かべたりしていたあの頃が、一番音楽を楽しんでいたと思う。

後の人生でこういう時期は、もう訪れないだろう。