神保町を代表するアダルトショップ「芳賀書店」(東京・千代田区)。芳賀英紀氏はその3代目として経営に奔走しながら、SEXセラピストとしてコーチングやイベント運営にも尽力している。かつては大手音楽事務所に所属して歌手を目指していた一方で、SEXを極めんと一念発起し、約3000人もの女性と性的経験を重ねてきた。同氏の性――すなわち、セックス、持ち前の性分(さが)、そして半生(SAGA)について、「芳賀英紀の性(SAGA)」として全9回にわたり連載する。
(聞き手=杉本憲史、取材日=2021年7月15日)
芳賀英紀の性(SAGA)
【第8回】
「お前ら人肉を食えるのか」
「食えない」
「それを表現しているくせに、ふざけるんじゃねえよ」
(芳賀)ところで、今年の僕のテーマは、自分の脳のブロックを外すことなんです。
あれをやっちゃだめこれをやっちゃだめ、これは美しい、気持ち悪い、これは美味しい、美味しくないとか、そういうことをいったん全部フラットにして、物事にあたれるか、捉えられるか、ということです。
去年よく友達に訊いていたのは、「焼肉屋で牛、豚、鶏、人間というメニューがあったとして、何を選びますか」という質問です。
杉本さんなら、何を選びますか。
――牛ですかね。
僕だったら、とりあえず人間を食べてみたい。人間を食べることも、他の動物を食べるのと同じように、「命を頂くこと」には違いない。
牛、豚、鶏は、すでに食べてきました。同じ感覚で人間を食べて、改めて美味しい、まずいとか感じながら、その行為を尊重できるのか。
なんでそんなことを考えたかというと、新宿ゴールデン街のバーに連れていってもらったときに、ある出版社の編集部員がいたんです。
彼らはモノを擬人化する漫画の話をしていました。擬人化したうえで、それを食べちゃう。そういう表現をしている作品を扱っていたんです。
僕は、ファンタジーとしてでもバイティングなどを扱うのは良いことだと思ったんです。本当の愛は、そこに行きつくと思うので。――相手を、食べてしまいたいとか。
そういうことを表現するのは良いけど、そういう作品で夢を見られるのってせいぜい20代までです。絶対、読者はいつか現実という障壁にぶち当たる。
「そのときにあなたたちは責任をとる覚悟でやっているの?」って、その場にいた彼らに訊いたんです。
そしたら「知りません」って言われて、ふざけるんじゃねえよと激怒してしまいました。商売で人を煽って、人の心のセンチメンタルでロマンティックなところを刺激するような表現をして、読者のお金で飯を食っているのに、責任を取る気がないってどういうことなんだと。すごい怒りが湧いてきちゃって。
「お前ら人肉を食えるのか!」と訊いたら「食えない」と答えたので、「馬鹿が! それを表現しているくせに!」と。
それで、人肉を食える人間ってどれくらいいるんだろうと考えて、友人に訊いたりするようになったんです。
僕が言いたいのは、命を平面化・一面化できるのかということ。ペンギンだろうが熊だろうが犬猫だろうが人間だろうが。地球に活かされている生物として。そういうフラットな目で見られるのか、ということです。
フラットにみたうえで、人間の特性を理解して地球に還元していく。そうでないと、本当の意味での繁栄なんてないと思っています。地球がなくなったら繁栄もない。
そういうわけで、今後の芳賀家のテーマは、「少なくとも地球のために生きましょう」みたいな(笑)。
セックスと死には密接な関係があると思いますよ(*1)。というよりも、死と表裏一体の関係である〝命〟の問題だといえるかもしれない。
自分の名前や自我も捨てて、「2人が1個の生命体として喜びたい」というのがセックスとしての究極なんですよね。みんな独りぼっちじゃ寂しいから、相手を求める。それで社会はマーブル模様になっているわけだけど、混ぜ物ではなく皆で1個の生命体になれたら。
そうしたら、皆で1つだけど決して1人じゃない。人生半ばでくじけてしまう人もいなくなると思います。
*1 第7回参照
■芳賀英紀(はが・ひでのり)
1981年、東京生まれ。神保町のアダルトショップ「芳賀書店」三代目。SEXセラピストとしてコーチングや講演活動を行い、フェチズム文化維持向上委員会も運営する。連載、執筆多数。Twitter Facebook
■杉本憲史(すぎもと・のりひと)
1986年、東京生まれ。埼玉育ち。ウェブメディア「Tranquilized Magazine」編集者、出版業界紙「新文化」記者。編著書にディスクガイド『Vintage and Evil』(オルタナパブリッシング)がある。NightwingsやWitchslaughtでバンド活動。Twitter Facebook
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