僕らは添加物だらけで生まれ育つ。だから、人生には引き算が大事。―芳賀英紀の性(SAGA)第7回

 神保町を代表するアダルトショップ「芳賀書店」(東京・千代田区)。芳賀英紀氏はその3代目として経営に奔走しながら、SEXセラピストとしてコーチングやイベント運営にも尽力している。かつては大手音楽事務所に所属して歌手を目指していた一方で、SEXを極めんと一念発起し、約3000人もの女性と性的経験を重ねてきた。同氏の性――すなわち、セックス、持ち前の性分(さが)、そして半生(SAGA)について、「芳賀英紀の性(SAGA)」として全9回にわたり連載する。
(聞き手=杉本憲史、取材日=2021年7月15日)

「どんどん自分をカッティングして、自分の本質に辿り着かないといけない」と語る芳賀氏


芳賀英紀の性(SAGA)
【第7回】
僕らは添加物だらけで生まれ育つ。だから、人生には引き算が大事。

――今後、やってみたいことは。

 未来を切り開きたい子たちのために本を出したいですね。僕の人生経験をもとに、「血まみれになっても良いんだよ、絶対に周りが守るから」というメッセージで、背中を押してあげたい。

 芳賀書店のアルバイトで、京都から上京してきた子がいるんです。

 その子は最初、SNSのDMで「ぜひ面接してください」と送ってきたんです。それで面接したら、大学院で性文化を研究したいと。頭が良くて建設的。そのうえ、部活のバンドで日本一になったんだとか。それも僕の経験に近い。やりきって、勝ち取るという経験ですね。

 その子に、「なんで上京してくるの?」って聞いたら、「芳賀書店で働きたいから」と言われて、僕は泣いちゃったんです。大学の同級生は大手企業とか給与の良いところに就職が決まっていたりするのに、その彼は抜き身で東京に来て、週3のバイトからスタートするんですから。

 芳賀書店も、やっとそういう人が集まってきてくれる場所になってきたんだなと感じました。時給とかに関係なくそこで働きたいという声が来たことに、「自分は間違ってなかった」と。

 性って生きている限りどこまでもついてくるもので、もしかしたら衣食住よりも大事な場合もあるんじゃないかと思っています。そこに死ぬまでのめり込む。僕はそういうつもりでいるし、そういう考えの仲間と一緒に働きたい。

――自殺願望があったとおっしゃっていましたよね。(*1)自殺願望があったことや「死」という概念と、往時のセックスへの渇望や、現在のセックスを追究していこうとする姿勢には関係がありますか。

 セックスが、一種の臨死体験だと思っている部分はあります。

 ただ、僕はサディストなので、セックスにおいて殺すのは相手の精神のほうです。相手からしたら、崖から突き落とされるような体験です。サディストには、こうしたロールプレイにおいて精神面でのセーフティネットをかけない人が多いんだけど、僕はちゃんとやります。

 話はガラっと変わりますが、僕の母は戦争直後を生きた人間なんです。あの時代の人間って、人生の根本的なベクトルが「生き抜く」という点で共通していると思います。モノが足りないし、そうするしかなかったから。だから、性の問題にしても快楽の前に生むとか育てるとか、そっちのほうに意識が向いている。それはそれで本質的なんです。

 今は物質にしても情報にしても過剰供給されている時代なので、僕らは心や魂までも添加物だらけで生まれ、育つ。選択肢もたくさんあって、甘えて生きることもできる。

 こうした時代には、余計なものをそぎ落としていかないと本当の自分が見えてこないと思っています。ダイヤモンドって、最初は硬度の高いただの石ころですよね。それをカッティングしていくことで価値がつくんです。

 さっき、セックスにおいて相手の精神を一回殺すと言ったのは、そうしないと相手の本質に辿り着けないからでもあります。

 そして、自分も傷つくことを恐れないのが大事。自分が本当にやりたいことを見つけるためには、どんどん自分をカッティングして、自分の本質に辿り着かないといけない。ボクサーが、試合前に減量するようなものです。

 物事を極めるためには足し算だけでなく、引き算も必要。まず自己否定ありきでの自己承認。

――自殺願望があったことは、後に自己否定を通じて研鑽を積んでいくのに役立ちましたか?

 家内と出会うまで人を信用することを知らなかったので、裏を返せば本当に怖いものがない状態でした。例えば僕が死ねば、世の中が少しは良くなるという保証があるのであれば、笑顔で死ねると思っていました。ごめん、これは今でも多少思っているけど(笑)。

 でもそんなことはありえないとわかっているので、じゃあ死ぬまで戦ってやろうじゃねえかという覚悟です。そういう覚悟をもてるのは、中学時代の自殺願望が進化してかたちを変えたうえで、僕のなかに残っているからかもしれない。

 芳賀書店を継いでからも、資金繰りが危なくなったときに、僕が今死んだら死亡保険が入るだろうから死のうかな、という考えが脳裏をよぎったことはあります。

 ただ、会社を経営してわかったのは、お金なんてものは運用する人によって1億円が一瞬でゼロになるし、100億円にもなるんですよ。そのとき、僕の周りにはお金をうまく運用できそうな人がいなかったので、今死んではだめだという結論に達したんです。

 とにかく、死に場所を探しているんですよ。格好良い死に場所を(笑)。それってダサいことなんだけど。

 その根底にあるのは、小学生のときにみた歴史の教科書とかに、偉人が載っているじゃないですか。そのとき、ここに載りたいって思ったことです。この記憶は、今でも鮮明にあるんです。

 いつか評価されたい。死んだ後でも、一部の人にだけでも、「こういう社会をつくった1人に芳賀英紀って人がいるよね」って言われたい。

 まあ、それは人が評価することなので、僕は僕なりの生き方を続けるだけ。評価は人に委ねてます。

*1 第4回参照


■芳賀英紀(はが・ひでのり)
1981年、東京生まれ。神保町のアダルトショップ「芳賀書店」三代目。SEXセラピストとしてコーチングや講演活動を行い、フェチズム文化維持向上委員会も運営する。連載、執筆多数。Twitter Facebook

■杉本憲史(すぎもと・のりひと)
1986年、東京生まれ。埼玉育ち。ウェブメディア「Tranquilized Magazine」編集者、出版業界紙「新文化」記者。編著書にディスクガイド『Vintage and Evil』(オルタナパブリッシング)がある。NightwingsWitchslaughtでバンド活動。Twitter Facebook

■前回

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■第1回

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