「夫婦関係が地盤」妻公認の〝彼女〟も―芳賀英紀の性(SAGA)第6回

 神保町を代表するアダルトショップ「芳賀書店」(東京・千代田区)。芳賀英紀氏はその3代目として経営に奔走しながら、SEXセラピストとしてコーチングやイベント運営にも尽力している。かつては大手音楽事務所に所属して歌手を目指していた一方で、SEXを極めんと一念発起し、約3000人もの女性と性的経験を重ねてきた。同氏の性――すなわち、セックス、持ち前の性分(さが)、そして半生(SAGA)について、「芳賀英紀の性(SAGA)」として全9回にわたり連載する。
(聞き手=杉本憲史、取材日=2021年7月15日)

夫婦関係について語る芳賀氏


芳賀英紀の性(SAGA)
【第6回】
「夫婦関係が地盤」妻公認の〝彼女〟も

――奥様を愛し、愛されている様子がSNSなどからとても伝わってきます。結婚何年目ですか。

 5年目です。夫婦関係こそが、今の僕の地盤です。

――結婚後、奥様公認の〝彼女〟がいたという記事がネットに上がっています。その〝彼女〟も、奥様と同じくらい大事な女性だったのですか。

 いえ、もう別れてます。

 〝彼女〟の存在が家内にバレたときに、「彼女と別れても良い。でも結局、今後浮気はすると思う。そういう俺をどう判断する?」という話をしました。

 そこで、家内が彼女と話をしたうえで、「私が認めた人なら付き合ってもいい」と言ってくれたんです。このあたりの話は、ポリアモリストとして注目されたときの、別のウェブ記事などでも話していますね。

――奥様は、そういう三角関係みたいなものが、大丈夫な人なんですか。嫉妬はしないのですか。

 すごく嫉妬します。僕も家内に、よく嫉妬します。うちの夫婦って、お互いにものすごく嫉妬するんです。

 でも、そのなかで家内が出した答えは、「はーちゃん(芳賀氏)のことをちゃんと好きな人であれば、付き合ってもいい」というものでした。

 この条件に合致する人となると、永続的に付き合えるような人間性でないとだめです。そうなると相手がいなくて、逆に浮気しなくなっちゃう(笑)。

 かつて付き合っていたその彼女は、既婚者でした。その夫婦はどちらもMなので、彼女は家庭では〝してあげる側〟だったんです。そうすると、女性側の願望が叶えられないので、不仲になりますよね。その願望が私との関係で実現できるようになったので、旦那様のM性を許容できるようになって、うまくいっていた。

 それが、旦那様よりも私のほうが良いという感じになってしまったから、「それは違うよ」という話をしました。

 「私には家内がいて、そちらにも旦那様がいることが前提でしょう。付き合いだした当初は、それによって旦那様とうまくいっていたんだから」と。結局、それでその彼女とは別れたんです。

――3000人もの女性と身体を重ね(*1)、ときには心も重ねたうえで、かけがえのない存在である奥様と出会われた。ということは、3000分の1の倍率で、運命の人と出会ったということです。この3000分の1という確率は、一般的だと思いますか。それとも、芳賀さんだったからこそ3000分の1だったのでしょうか。

 僕には芳賀書店という、自分の命よりも重いものがあるんです。だから、それを配偶者にも押し付けないといけない。自分の命よりも重いということは、相手の命よりも重いということです。僕にとっての人生の最優先事項は、芳賀書店なんです。

 一般的には、そこまで大事なものを抱えている例は少ないと思うので……。

 ということは、一般的には1000分の1から2000分の1の間くらいに均衡点があるんじゃないですかね。10分の1なんてのは、かなりラッキーな例だと思ってます。

――個人的な解釈ですが、この1000人とか2000人という人数は、身体を重ねた女性ではなくてもカウントして良いと思っています。つまり、結婚するまでに大体このくらいの人数の女性と、学校や職場などで知り合ったり会話したりすると思うので。そのなかの巡りあわせで、結婚にいたる。

 僕の価値観では、やはりセックスを1000人や2000人と経験するのは無駄ではないと思っています。

 変な話、恋愛やセックスは武道での手合わせに似ているんです。研鑽を積んだときに、「この子ってこうしてほしいんだ」というのが勘でわかるようになる。そうすると、自分と相手のマッチングの精度も上がるので、他の人にもそうした経験を多くもってほしいとは思います。

 早い話が、セックスし始めの頃なんて、ただの交尾じゃないですか。心の会話がないんです。そういうことをいっぱいして、いっぱい傷つかないと、相手の心を拾う行為なんてできない。

 僕のように特殊技能と呼べるほどのものを身につける必要はないですけど、セックスで傷ついたときに、逃げないで、もっと傷ついてやるくらいの勢いでやってほしい。

 その先に、絶対に、僕にとっての家内のような、大切な人との出会いがあるのだと思います。

*1 第5回参照


■芳賀英紀(はが・ひでのり)
1981年、東京生まれ。神保町のアダルトショップ「芳賀書店」三代目。SEXセラピストとしてコーチングや講演活動を行い、フェチズム文化維持向上委員会も運営する。連載、執筆多数。Twitter Facebook

■杉本憲史(すぎもと・のりひと)
1986年、東京生まれ。埼玉育ち。ウェブメディア「Tranquilized Magazine」編集者、出版業界紙「新文化」記者。編著書にディスクガイド『Vintage and Evil』(オルタナパブリッシング)がある。NightwingsWitchslaughtでバンド活動。Twitter Facebook

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