東京・神保町を代表するアダルトショップである、芳賀書店。1936年に巣鴨で創業。かつては出版事業も手がけ、神保町に3店舗を展開していたが、現在は本店のみが営業している。
創業者・芳賀章氏の孫である英紀氏は、同社の3代目。学生時代はプロの歌手を目指し、事務所に所属していた過去をもつ。SEXセラピストとしてコーチングや講演活動を行い、メディアへの露出頻度も高い有名人である。
今は専務を務める英紀氏が2002年に3代目社長に就任したとき、同社は赤字経営を続け、11億円もの負債を抱えていた。その後、英紀氏のもとで紆余曲折を経つつも負債をほぼ返済して黒字化し、事業の幅も広げてきた。
そんな同氏に、19年に開設したウェブメディア「HAGAZINE」、音楽、性の問題、アダルト書店経営などについて話を聞いた。
(聞き手・杉本 憲史)
■「目標はAerosmithのSteven Tyler」
――2002年に21歳で芳賀書店をお継ぎになったときは、学生だったんですか?
学生でした。高千穂大学(東京・杉並区)に通いながら、シンガーとして音楽事務所に所属してました。
――運命が違えば、今頃は歌手になっていたかもしれませんね。
歌手になっていたかはさておき、仮歌の仕事などはあったので、生きていけたかとは思っています。
――歌のジャンルは?
目標はAerosmithのSteven Tylerでした。
――服装も意識してるんですか。
絶対に影響はされていると思います。
――ちょっとサイケデリックなシャツとか。
そうですね。
21歳で社長に就任したときに、芳賀書店が11億円の負債を抱えた経営難の状態でしたから、広告費もなにもないので、自分がアイコンになろうと。基本的に、労働着としてのデニム、そして柄シャツ。このスタイルをベースにしようかなあと。まぁ、やりたかったことと、やらなければならないことを、強引に1つにしたみたいな感じ。
歌手を目指していた時代、音楽はChuck Berryまで遡りました。そのうえで、自分は歌でなにが表現できるのか考えたんです。「野獣性」というのはキーワードですね。僕はもともと声が細いんですが、Steven Tylerも若い頃は細かったんです。でも、あそこまでいきましたからね。
――バンドやってくださいよ! アンダーグラウンドでの活動でも良いじゃないですか。
今は、声に張りも伸びもないですからね……。
かつて、歌をやってて一番楽しかったのはライブでした。オーディエンスの空気が伝わってくるじゃないですか。今日は泣きたいとか騒ぎたいとか。その空気を読んで、曲順を変えてやってみたり、バラードでもお客さんが笑いたい空気だったら笑えるように歌ってみたりしていました。
でも、そういうことをするには、やはり下地がないと。家でCDを聴くよりも生で聴いたときに、より響く、沁みる、っていうのを目指したい。
僕は小さいころから美空ひばりさんの歌を聴いて、「なんか良いなぁ」と思っていました。初めて行ったコンサートは、小学生のときに連れて行ってもらったMichael Jacksonの来日公演でした。この2人からの影響が強いです。「ザ・エンターテイメント」「ザ・歌が沁みる人」みたいな。
この2人が僕の音楽の原点になっているので、「やるからにはトップ目指さないとなぁ」みたいな思いがあって(笑) まぁ、いまバンドやるとしたらマスターベーション的なものにはなるだろうと思いますけど、やりたい気持ちはあります。
最近また、知人に「音楽やろうよ」と言われてるんです。僕も、やりたい気持ちはある。ただ、音楽性が合わないと継続できないですからね。そしてやはり、ドラマーが見当たらない。そういう面で、難しいと感じています。
僕は究極的には、30人くらいでキャンプファイヤーを囲んでいるようなときに、バンドサウンドがなくても歌だけで皆を泣かせたり笑わせたりできるのがヴォーカリストとしての最終到達点かな、と思っています。
今は、攻撃性はかなりなくなってしまいました。怒りが原動力なのは変わらないんですが、チンマイことで怒っててもしょうがねぇなっていうのがあって。それを音楽に投影するときに、何を歌うべきなのかがちょっとわからない。
日本語で歌うべきなのか、英語で歌うべきなのかも。僕のベースは洋楽なんですけど……やっぱり桑田佳祐さんすごいしなぁ……とか思ったり。
――Steven Tyler、Michael Jackson、美空ひばり、桑田佳祐……。トップアーティストの名前が並びますね。「野獣性」という観点からすると、エレファントカシマシの宮本浩次さんはどうですか?
好きです! 僕、事務所に所属していたときに、「宮本さんは例外の人だから」って言われたんです。あれは地喉が強くないとできないことだと。宮本さんはすごいですよねえ。
あとやっぱり、日本人だったら忌野清志郎さんは突き抜けてるなぁと思います。あの人の存在が、日本にロックを定着させた面もあると思う。サッカーでいう“カズ”みたいな。
ただ、僕はあまり知識はないんですよ。「音楽やってるからいろんな音楽を聴かなきゃ」とか思ったことはあまりなくて。どちらかというと、どれだけ自分を高められるか、ということに意識がいくんです。
歌に本格的に取り組んでいたときは、つま先から脳天まで声が出ている感じだったんです。それが今じゃ、胸から上くらいしか使えていないような気がして、悔しいなぁと。
音楽やってるときは、薬物とか全然やりたくなかったです。楽器隊だったらやってたかもしれないですけど、ヴォーカリストだったので喉に負担をかけたくなかった。しゃがれ声になりたくて、煙草をウワーッと吸って、アルコールアレルギーなのに強い酒を飲んで、喉を焼こうとしたことありますけど(笑)
■理屈を超えてくる音楽の凄味
――どちらかというとアメリカのバンドが好きですか。
そうですね。Van Halenとか。Van Halenだったら、Sammy HagarよりもDavid Lee Rothのほうが好きです。僕自身の歌は、Sammy寄りですけど。
Davidのリズム感を真似することは無理です。あのリズム感は彼にしかない。実際、“Panama”とか難しいですから。桑田さんみたいにロジックにずらしてるわけじゃなく、感覚でやってる感じがするんです。あと骨格とか、色々な要素が組み合わさってあの独特のリズムが生まれてる気がするので、真似できないです。Sammyはどちらかというと教科書通りの声の出し方なので、あれならトレーニングすれば出る。
最近のバンドだと、Linkin Parkの1stが出たときは期待しましたね。ロックと今どきのR&Bがミックスされてて、ここからどう表現してくんの? と思ってたら、2ndクソだったんで……(笑)
――(苦笑)イギリスのハードロックはどうですか。Black Sabbathとか。
Black Sabbathは誰にも否定できないですね。あれはすごいです。音楽やっててBlack Sabbathわかんないって奴は、やめたほうが良いんじゃない? って思いますよ。理屈抜きですごい。
――ほかに影響を受けたアーティストは?
歌手を目指してた頃は高音が出てたので、ライブでAC/DCのカバーをやったりしてました。でも、そのときは喉から血が出ました(笑) あれをやり続けると、あの声しか出なくなりますね。あの声は、脳に残るんですけどね。AC/DCも理屈を超えてくるものがあるんですよね。
――ああいうタイプのヴォーカリスト(AC/DCのBon ScottやBrian Johnson)はいま、あまり出てこないですね。
寂しいですね。
P!nkみたいな人に頑張ってほしいです。P!nkとSteven TylerがAerosmithの“Misery”をデュエットしてるのがあるんですけど、凄いなと思います。
あと、Bob Marleyの曲を色々な人がカバーする企画で、BobとStevenが“Roots Of Reggae”を半分ずつ歌っているのを聴いて、「Stevenの声って、Bobにけっこう近いんだ!」と気付きを得たりとか。そこで改めて、Bob Marleyの凄さを知りましたよ。
でも今は、本気出して歌っても、せいぜい邦楽で目いっぱいですよ。洋楽となると、初期のBon Joviとか、Mr.Bigあたりが目標なんですが、Mr. Bigとなると、たぶん劣化版みたいなものしか歌えない……。
最近のアーティストはほとんどわからないですね……。日本だったら井上陽水さんとか、初期の玉置浩二さんとか。陽水さんはやっぱりすごいですよ。1回、「フジロック」で聴いたんですけど、彼の声には観客にしゃべらせない力がありますね、それまではちょっと苦手だったんですけど、生で聴いたら認めざるを得ない!
でも、やっぱりバンドが好きなんですよね。見た目とかが大事なのはわかりますけど、音やライブで勝負したいところがあるので。
そういう観点では、Radwimpsは独特で良いなと思っています。あのレコード会社が好きなんですよね。日本だと、山崎まさよしさんやスキマスイッチとか、ちゃんとした人たちがいると思いますね。福耳とか。クオリティ高い人が多いなと。
※第1回はこちら
※第3回はこちら
※「アダルト書店経営編」は、出版業界専門紙「新文化」3308号(2020年2月20日、新文化通信社刊)に掲載。
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芳賀書店 本店
〒101-0051
東京都千代田区神田神保町2-7
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