「心と心のロマンティックな接合が一番好き」2000人とセックスして到達したこと―芳賀英紀の性(SAGA)第2回

 神保町を代表するアダルトショップ「芳賀書店」(東京・千代田区)。芳賀英紀氏はその3代目として経営に奔走しながら、SEXセラピストとしてコーチングやイベント運営にも尽力している。かつては大手音楽事務所に所属して歌手を目指していた一方で、SEXを極めんと一念発起し、約3000人もの女性と性的経験を重ねてきた。同氏の性――すなわち、セックス、持ち前の性分(さが)、そして半生(SAGA)について、「芳賀英紀の性(SAGA)」として全9回にわたり連載する。
(聞き手=杉本憲史、取材日=2021年7月15日)

自らの性体験をビッグデータとして語る芳賀氏


芳賀英紀の性(SAGA)
【第2回】
「心と心のロマンティックな接合が一番好き」2000人とセックスして到達したこと

――芳賀さん個人としては、どういうプレイが一番好きなんでしょうか。芳賀さんには性癖があるのですか。

 僕は、一言でいえば「ロマンティック」です。

 例えばセックスにおいて加虐が欲しい人たちというのは、心が閉じてしまっているからであって、人間の本性的にはこうした人たちも心での接合を求めてるのだと思います。

 加虐が必要な人たちは、心が閉じているからそのままでは接合できないのです。だから、加虐によって開いてあげてからの接合になる。それは、やはりロマンティックなものです。

 例えば、僕はどんなに綺麗な人にフェラチオされても、そこに心が伴っていなければ駄目です。

 今年(2021年)も、2月頃に1日完全にフリーになる日があって、久しぶりにデリヘルを呼んだんです。1日に3軒! 

 最初の2軒では勃起できませんでした。で、3軒目で最上級店に頼んだんです。

 上手だな、気持ち良いなとは思っても、今度は勃ちはするけどイかない。やっぱり、相手が自分を求めてくれないと。気持ち良いとか、そういう相手のエネルギーが流れ込んでくるんですよ。それで僕は屹立するタイプなのです。

 自分が受ける快楽で屹立するのではなく、相手が喜ぶ身体の声とかエネルギーが僕に入ってくると、化学反応が起きるんです。なんか、こじらせたなあと思いますけど(笑)。
 
――「こじらせ」という言葉が出ましたが、ヤリチンの人って、いわゆる変態が少ない気がしています。私の実感では、こじらせた性癖をもっている人には、童貞の期間が長かったり、欲求不満だったり、幼少期に何かあったりする人が多い。満足できる性交渉が絶たれている期間に想像力がたくましくなってしまい、女体や性行為そのものではなく、アイテムや概念が女性を想起させるもの、それそのものを好きになってしまったりとか。その点でいうと芳賀さんは職業柄、色々なプレイを実践されていますが、結局何が一番好きかというと……。

 普通のセックスです。

――そのような考えにいたったのは何歳くらいですか。

 27歳か28歳くらいです。

――そのときの経験人数は。

 2000人くらいです。

――すごい人数です。どうすれば2000人とセックスできるのですか。

 最初の頃は、1日1人とセックスしてたんです。

――どういう相手とですか。

 ぶっちゃけると、7割は風俗嬢です。でも風俗嬢って、素人よりも性愛に関して厳しい面がある。普段、自分がやりたくないプレイをしてストレスを溜めている場合が多いので、相手がしたいことに応えてあげて、デートに繋げるのです。

 ロジックでいえば簡単ですが、それをどのように実践できるか、ということがポイントです。そこにはちゃんと作法がある。

 風俗でいうと、「お金を払えばホームページに書いてあるプレイを受けられるんだよね」とか、「体験漫画通りのプレイを」なんて言う方が多いですが、僕は担当してくれた女性と触れ合う時間をお金で買う、くらいにしか考えていません。触れ合う前には、会話をします。その権利を買うという考え方です。

 それを意識していると、相手との関係性が人と人になるので、その場で性行為にいたらなくても、私を気に入っていただければ後日そういうことになることもある。

 僕がイかなくても良いんです。楽しければ良い。会話をしていくと、相手の人生を聞けるので、彼女の人生を疑似体験できる。

 2000人と性行為したということは、2000人分の疑似体験が僕に入っているわけです。そうやって、僕は僕なりのビッグデータをつくってきたのです。

――芳賀さんのなかにビッグデータがあると。

 僕が様々な場所で行っている発言に対して、それは違うと言ってくる人もいます。ただ、僕のビッグデータは僕の保有するもので誰にも文句のつけようがないものでもあるので、誰にどう言われようが攻撃されようが、受けて立つ覚悟です。

 そもそも、僕以上のことを体現できるのであれば、僕に絡む必要すらないわけです。僕に絡む暇があるんだったら、自分を磨くほうにエネルギーを使ってほしい。

 その点、僕の周りにいる人たちは、他人に絡まないんです。そんな暇があったら自分を磨こうという人しか仲間にいません。

 そういう人間同士でしかつくれない世界観があると思います。そうした世界観をもつ場は、後から入ってきてくれた人たちにとっても居心地が良いはずです。

 イベントでもこういうことを重視するので、お客様、演者さん、ブース、皆が喜べるような環境づくりを意識しています。モデルさんに嫌なことをするお客様は簡単に出禁にします。

 プロダクションをやっているわけではないんですが、場を使ってくれている皆に守ってもらわないといけないことはある。その自浄作用は、僕がもたないといけないと考えています。

――「場」といえば最近、「フェチズム文化維持向上協会」を立ち上げられましたよね。これはどうして?

 100人の人がいれば、100通りの「普通」があると思っています。ということは、「フェチ」という概念も、100人いれば100通りある。

 僕と杉本さん(取材者)の共通点として、「紙(の出版物)への愛」というのがあると思いますが、多分、その中身はちょっと違うじゃないですか。そこを分析していく組織というのは、今までなかったと思います。

 今、ジャンルの細分化は進んでいるけど、1個の小分類のなかにおけるグラデーションを整理する人がいないから、そういう組織をつくらないと駄目だなと。

――仲間と集まっているときに「やろうよ」となったのではなく、芳賀さんが1人で考えて立ち上げたのですか。

 急に思い立ったんです(笑)。それでツイッターアカウントをパッとつくったら、家内がロゴをパって描いてくれたんです。

芳賀氏の妻・柚衣氏が作成したフェチズム文化維持向上委員会のロゴ

 アダルト業界では、似たような商材を推す企業が増えています。AVでいえば、パッケージも撮影クルーも似たりよったりで、内容も〝アダルト〟から〝ポルノ〟に寄ってしまって(*1)。

 そうした現象が起きているから、何とかしなくちゃという思いで始めたのが「フェチズム文化維持向上協会」です。ユーザーたちの声を拾い集める機関ができれば、大手企業が話を聞いてくれるんじゃないか、という考えもあります。そういう色々な機能をもたせていきたい。

 まずどういう人が集まるのか試してみて、厳選された人たちで、プライベートと商業の境目をどんどんなくしていこうと思っているんです。

 そして委員会を動かしながら、〝医療の手が届かない部分の医療〟(*2)を提供できればと。

 生殖としてのセックスや、セクシュアリティだけが性の領域を埋めるものではないと考えています。

*1芳賀書店三代目、セックスを語る!参照

*2 第1回参照

■芳賀英紀(はが・ひでのり)
1981年、東京生まれ。神保町のアダルトショップ「芳賀書店」三代目。SEXセラピストとしてコーチングや講演活動を行い、フェチズム文化維持向上委員会も運営する。連載、執筆多数。Twitter Facebook

■杉本憲史(すぎもと・のりひと)
1986年、東京生まれ。埼玉育ち。ウェブメディア「Tranquilized Magazine」編集者、出版業界紙「新文化」記者。編著書にディスクガイド『Vintage and Evil』(オルタナパブリッシング)がある。NightwingsWitchslaughtでバンド活動。Twitter Facebook

■第1回

「文化を継承する中間層が足りない。僕はそれを目指している」―芳賀英紀の性(SAGA)第1回

■次回

3Pで童貞喪失という〝敗北体験〟「女子と手を繋いだこともないのに」―芳賀英紀の性(SAGA)第3回

■2020年に行ったインタビューはこちら

芳賀書店三代目、ウェブメディア「HAGAZINE」を語る!

芳賀書店三代目、音楽を語る!

芳賀書店三代目、セックスを語る!