金曜夜のヘヴィメタル 2025年

【Index】
その1-Extreme「Extreme」(1989)
その2-ファンジン「青牡蠣通信」Vol.11(2025)
その3-Judas Priest「Angel Of Retribution」(2005)
その4-Fortune「Making Gold」(1993)
その5-Death Penalty「Death Penalty」(2014)
その6-Ladies Room「Sex Sex Sex」(1989)
その7-Danzig「Ⅲ: How The Gods Kill」(1992)
その8-Exciter「Heavy Metal Maniac」(1983)
その9-Dream Evil「Dragonslayer」(2002)
その10-Dungeon「Demolition」(1996)
その11-Paintbox「Cry Of The Sheeps」(2001)
その12-Death Angel「Frolic Through The Park」(1988)
その13-Fair Warning「Brother’s Keeper」(2006)
その14-Dreamtide「Dreams For The Daring」(2003)

最近、格闘技ジムの行き帰りの車中で、以前よく聴いていたヘヴィメタル系CDを意識的に聴いています。必ずしも金曜日と決まっているわけではないが、金曜日が多いのでこういうタイトルにする。

昔聴いていたCDを久しぶりに聴くと、当時の記憶が蘇ってきたり、当時は気付かなかった音楽的ギミックに耳が行ったり、時間の経過がもたらした感想の変化を自分なりに感知することがあったりして面白い。

そういう感想もこまごまと記録に残しておけば、10年後20年後に読み返したときにまた自分で楽しめるんじゃないかと思い、自分しか使わないハッシュタグ付けてSNSに放り込んでおこうと思って始めた、ごく私的な感想雑記です。

ここ1~2カ月ほどで聴いて頭に色々な言葉が浮かんだのは、Death Angel、Dream Theater、Desultory、Dark Angel、Dark Tranquillityなど(ABC順に聴いているので、この頃は〝D〟でした)。しかし遡ってまで書くのは、ライブ感が失われるし面倒臭いので、やりません。

その1―Extreme「Extreme」(1989)

スーパーギタリスト、ヌーノ・ベッテンコートを輩出したアメリカのハードロックバンドの1st。

ハードロックにファンキーな要素を融合させたバンドとして、主にハードロック/ヘヴィメタルサイドのリスナーに支持されている印象のバンドだけど、同時代のLiving ColourとかRed Hot Chili Peppersとかのファンキーオルタナロックを聴く耳で聴いても面白いんじゃないかと思う。

ただ、このジャケットが示すような独特のダサさが、時代的なモノに加えてとくにHR/HM系特有のダサさでもあるので、それを許せる当該ジャンルのヘヴィリスナー専用のスタッフになっていることはまあ自然な成り行きなんだろう。

私は中学生くらいの頃に、彼らの代表作である2nd「Pornograffitti」を割と愛聴していたが、素っ頓狂に明るいヴォーカルの感じなんかを捉えて「これはダサい」とも感じていたので、聴いていることをあまり公言しなかった。

Nightwingsのスタジオで、H氏が一部の音楽を言い表すときに「こういうの好きなんだ~って、女子に思われたくない音楽」という表現を用いることがあるが、その感じ。

Nightwingsのスタジオと言えば、しばしばメンバー間で「どんなバンドTシャツがダサくて、どんなバンドTシャツならダサくないか」という議論をするのだが、K氏がダサいアイテムの筆頭としてよく挙げるのが、このExtremeの1stのジャケを前面にあしらったプリントTシャツ。

確かに、このジャケのデザインはとにかくストレートに「ダサい」わけだけど、これでTシャツのボディが白だったりすれば、「ロックを聴かない今どきの若者が、あえて80’sロックテイストの古着を着てる感」で着られなくもないんじゃないかと個人的には思う。

しかしこのTシャツを着てライブハウスに繰り出しなぞしようものなら、普通に「Extremeガチ勢」として捉えられる可能性が高いことはもちろん、下手すると「速弾きガチ勢」と思われるかもしれず、それはなんだかすごく癪に障る。
個人的に、「ハードロックガチ勢」以上に、「速弾きガチ勢」にまとわりつく非モテ感のイメージは強いと感じている。バンド関係者同士だと、「アンサンブルをわからない奴」と思われそうなリスクも感じる。この感じは一体なんなんでしょう。
Extremeの音楽的業績は凄いし、ヌーノ・ベッテンコートのプレイをしっかりとコピーできるギタリストなら(私には無理)、私よりバンドアンサンブルを深く解し、私よりステージでモテるとも思うのですけれども。(4月4日)

その2-ファンジン「青牡蠣通信」Vol.11(2025)

“BOC”Kenさんによる名門ファンジン、「青牡蠣通信」Vol.11。

基本的にはメタル系のZINEだけど、Kenさんの幅広い音楽的嗜好が反映されてハードコアやプログレ、J-POP、アイドル、昭和歌謡などにも触手を伸ばした内容。Nightwingsのアルバムもレビューして頂いてありがたい。
アクセル土田氏(GATE AND BARRICADE)によるLiFEのインタビューを興味深く読んだ。

本誌を特徴づけているのがKenさんの女性芸能人に対する愛情の深さで、アイドルやセクシー女優などについて、音楽と同等の熱量をもって綴られている。
今号にはYuto氏(Blood Sucking Freak)による「屍体性愛者」をテーマにした寄稿もあったりして、Kenさんによる「編集後記…の前の独り言」で昭和のエロ本からの影響について言及されていることにも納得のカオスさが心地良い。
「編集後記」には、「音楽とエロを同列に書くとは!?と眉をひそめる意見も当然わかっておりますが、こればっかりは、好きなものを好きなように追求するという姿勢は崩したくない」とあるが、むしろそうでなくては、と思う。

先日、Nightwingsのスタジオに持って行き、BANさん(TILL YOUR DEATH RECORDS)による寄稿「日本のモダンヘビィネスシーンを代表する作品紹介」で盛り上がった。何しろメンバーの大半が、90年代後半から00年代初頭にかけてキッズ時代を過ごし、ライブハウスなどのシーンにおけるそうした盛り上がりを見て育ったのである。あれも載ってる、これも載ってる、これ当時中古屋によくあったけど今見かけなくなったなあ、なんて話してました。(4月7日)

その3-Judas Priest「Angel Of Retribution」(2005)

かつてのJudas Priestのドラマーであるレス・ビンクスの訃報が届いたばかりだが、それとは関係なくこのアルバムを。

このCDは私のコレクションの中で長年行方不明になっていて、つい先日、妻がゲームソフトを保管しているケースの中から「リズム天国ゴールド」とか「キングダム・ハーツ」とかに紛れて入っているのを発見した。そういえば妻と交際中、彼女の家にこのCDを持って行って、特典のライブDVDを観た記憶があるから、それ以来の邂逅ということになる。実に10年以上ぶりだ。そしてこのアルバムがもう20年前の作品ということにも驚き。

このアルバムが発売された時には、ロブ・ハルフォードの復帰作であるということに当然それなりの期待をしつつ、でも老舗バンドの〝現代作〟にありがちなズッコケ感もそれなりに事前の期待値に織り込んで、割と冷静に向き合った覚えがある。

「Painkiller」(1990年)以降のJudas PriestとHalfordのモダンさを消化しつつ、Judas Priestおよびロブ・ハルフォードにメタル・ゴッドとしての威光を強く求める(特に)「Painkiller」のファンの期待を裏切らないようにまとめてきたって感じかなあ。

Judas Priestの長い歴史の各時代ごとにみられた特徴をもつような曲が(おそらく意識的に)バランスよく収められている。しかし、ドラマーがスコット・トラヴィスということもあって、いかんせん全体の音作りが「Painkiller」以降の感じ。我が耳を〝Painkiller耳〟にアジャストして聴けば「お、まあまあだね」てな感じ。

この「Painkiller」を巡る議論、および70年代派か80年代派か、メタル・ゴッドとはどうあるべきか、そもそも彼らにメタル・ゴッドを求めるのか、といったJudas Priest論に関しては私も人並み以上にうるさいタイプで、まじめに語り出すと時間がいくらあっても足りないのでここでは踏み込まない。

本作の収録曲では、メタル・ゴッドとしての威信を取り戻さんと力みまくりのオープナーだけどあえて走らないところが渋い〝Judas Rising〟、大英帝国産正統派ヘヴィメタルの誇りを感じさせる〝Deal With The Devil〟、来たるシンガロングパートに向けた主題をギターソロパートのバッキングに滲ませて否が応でも盛り上げる〝Hellrider〟がお気に入り。(4月18日)

その4-Fortune「Making Gold」(1993)

スウェーデンのヘヴィメタルバンドの1st。
これも妻のゲーム収納ケースから発掘されたCDのひとつ。

よく覚えていないが、中高時代ではなく割と大人になってから買ったCDだと思われる。
ある種の名盤ガイドでは常連の作品で、メロディアス派の人々から愛されているのを知識としては知っていた。
しかし、私は社会人になってからこういう外連味のない正統派メタルをあまり熱心に聴かなくなっていたから、中古屋の均一棚などでサルベージしてちょっと耳を通し、そのまましまい込んでいたのだろう。内容ほぼ記憶になし。

という状態でこのほど向き合って聴いたけど、なかなか良いですね。
キーボードも使用されているけど、過度なキラキラや派手なコーラスによる装飾が薄い(コーラスそのものがないわけではない)実直なヘヴィメタルで、リリースされた93年当時としてもかなりオールドファッションな代物だったのではないだろうか。鼻が詰まったような声質で垢抜けない無個性派なヴォーカルは、80年代~当時の北欧ものでよく耳にした感じで懐かしい(今でもいるだろうけど)。
2曲目の〝Anonymous Lover〟のサビが「成増ラバー」と聞こえて、そういえばエロ本を平積みで展開していた成増の本屋さんは元気だろうかと思いを馳せるなど。

もう2回くらい聴けば曲が印象に残りそうだけど、さてどうするか、みたいな局面です。
ちなみに車で本作を再生中、暴走族風の改造を施した2ケツバイクが横をすり抜けていった。後部座席の奴(ノーヘル)が弁当を箸で食っていて、これにはマイッタ!(4月25日)

その5-Death Penalty「Death Penalty」(2014)

元CathedralのGaz Jenningsが、ベルギーのSerpentcult元メンバーを中心とする面子と組んだバンドの1st。
ヴィンテージ・リバイバルが飽和をみせていた当時、執筆中だった『Vintage and Evil』に載せようと思ってチェックした音源。

メンバーの出自からはドゥームの名手ならではの手練手管を、Death Penaltyというバンド名と素朴なアートワークからはWitchfinder Generalを期待し、とくに後者的な音像を想像して臨んだせいで、肩透かしを食った。

当時隆盛を誇っていたNWOTHMをCathedral的なプロダクションでまとめた作品で、わりとカッチリした正統派メタルをズッシリとしたヘヴィネスで提示する音像は、Witchfinder Generalとは似ても似つかぬもの。ホラ、Witchfinder Generalにはカッチリもズッシリも似合わないじゃないですか。曲調も違う。

というわけで個人的にはガッカリ音源だったんだけど、本にはそんな風には書かなかった。勝手に超具体的な音像を期待したこっちが悪いのだし。(5月2日)

その6-Ladies Room「Sex Sex Sex」(1989)

日本のヘヴィメタルバンドの1st。当時、Yoshiki氏のExtasy Records所属。

割と最近聴き始めたバンドなので、「過去によく聴いていたヘヴィメタル系音源をあえて今聴くことで心に浮かぶ色々な感想を綴る」という「金曜夜のヘヴィメタル」の趣旨からはズレる。どちらかというと、最近の私が興味をもって掘っている音の方向のひとつ。

LAメタルのノリを基調としたジャパメタの典型のような装いだけど、音がBOOWYのような感じで、つまりポジパンっぽさがある。ポジパンの先祖であるゴシックとメタルの融合が、メタル界隈でグローバルに大きなムーブメントになったのは90年代のゴシックメタルだと思うが、ゴシックメタルはほぼメタルの音だ。

それに対して日本の80~90年代のBOOWY周辺/ジャパメタ/元祖ビジュアル系界隈の一部のバンドが、曲調自体は歌謡曲寄りのハードロックでありながら音作りはゴシック/ニューウェーブ/ポジパン的なものに依拠したある種のクロスオーバーを提示していたのは、完全に日本独自の傾向と思われ興味深いことだ。

それはさておきこのLadies Room、アルバムタイトルにも表れているようにセックス・ドラック・ロックンロールのなかでもとくにセックスに強い意欲を示すバンドで、それを明け透けな日本語詞で歌う。それを聴いたところで、別にこの年齢になって恥ずかしがったり嬉しがったりすることはないんだけど、家族と一緒だとちょっと気まずいな。とくに、出産後に別人かというくらい下ネタや性的表現を毛嫌いするようになった妻の前では(笑)。(5月16日)

その7-Danzig「Ⅲ: How The Gods Kill」(1992)

Misfits~Samhainのフロントマン、Glenn Danzig率いるバンドの3rd。
一番の代表曲は1st収録の〝Mother〟だと思うけど、楽曲が粒揃いで全体的に完成度が高いのはこの3rdなんじゃないか? H.R.Gigerのアートワークもサイコー。

久々に聴いたって感じでもないけど、いや~いつ聴いても格好良い!
このバンドは初めて聴いた高校生の頃から、個人的につかず離れずの距離感でリスペクトし続けている。リスナーとして一回卒業した後に回帰するとか、一周回って逆に……みたいなことではなく、一貫して私の思考内のちょっと見切れるか見切れないかというくらいのレンジの、手を伸ばせばいつでも取り出せる位置に置いてある。
という意味ではほぼ本命級に好きなバンドでありながら、しかし今のところDanzigみたいな音楽を演ろうと思ったことはない。Alice In Chainsなんかも私の中では同じようなポジションにある。というのも、曲調だけ真似してもヴォーカルがスーパーマンじゃないとこういうのはできないからなあ。

まずBlack Sabbathが下敷きにあるのは、それこそ楽曲の〝Black Sabbath〟みたいな冒頭の〝Godless〟からも明らかで、Black Sabbathのアンサンブルに何も足さないシンプルな音像ながら、オリジナリティの塊であるGlennのヴォーカルとリフワークが素晴らしい。ハードロックはリフによって義とされ、ヴォーカルによって是とされる。
拙著『酩酊と幻惑ロック』(東京キララ社)には載せたし、先日トークイベントをやった松尾さんの『ドゥームメタル・ガイドブック』(パブリブ)でも紹介されていたが、国内ではドゥームというよりグランジ/オルタナティブの文脈で語られることが多い印象だ。中古ショップの棚で言うと、Rollins Bandとかが近くに置いてあるイメージ。だけど、陳腐なBlack Sabbath引用に終始する一部ドゥームよりよっぽどドゥームだし、後の作品からもわかるように拡散的な越境の精神をもつところはとってもロックだ。(5月23日)

その8-Exciter「Heavy Metal Maniac」(1983)

カナダのヘヴィメタルバンドの1st。

Witchslaught初期の頃に、こういった作品群がもつ初期衝動をバンドにインストールしようと思って、この辺りのスピードメタル~初期スラッシュメタル系のバンドを熱心に聴いていた。もちろん本作も。
『Vintage and Evil』執筆中は、ヴィンテージ・リバイバル系のバンドが数多く出てくるなか、「白黒写真と血文字」みたいなアートワークが、VAEとの相性を示すひとつの指針になっていた。もちろん、その筆頭というかプロトタイプのひとつとして、本作を念頭に置いていたことも間違いない。

そういう意味ではかなり精神的には影響を受けていて、かなりの回数を聴いたことも確かなんだけど、なぜか曲がほとんど印象に残っていなかったりする。本稿を書くために改めて聴いたけど、聴くそばから曲が脳から抜けていくんだよなあ。ヴォーカルが普通声ながら、メロディらしいメロディをほとんど歌っていないことが関係しているだろうか? 
「曲が勢いまかせ」「音質悪い」「演奏粗削り」といったB級メタル特有の要素のいずれも、それだけでは私にとってそこまで減点対象とはならないから、バンドとの相性の問題なんだろうな。

私が普段お付合いしている界隈では神盤のように崇められていると思われるので、このような微妙な感想を積極的に発信することもないなと思い、SNSへの投稿はしないでおく(今後、こういうパターン多くなりそう)。(5月30日)

その9-Dream Evil「Dragonslayer」(2002)

北欧メタル界隈の有名な人たちによる(雑)ヘヴィメタルバンドの1st。

割と大人になってから、均一棚あたりで格安で発掘したような気がする。当時琴線に触れることはなく、長らく棚の肥やしになっていたものをこのたびプレイ。

って、中高生の頃によく聴いてたわけでもなく、今もその音楽に興味がなかったら、その感想を文章にしてわざわざ世間に晒す必要ある? と私の中の冷静な私がタンマをかけたんだけど、何であれ「#金曜夜のヘヴィメタル」として聴いたものは記録に残そうと思う記録キチな私が強引に筆を進める。しかし、この手のファンタジー系のダサジャケがSNSのタイムラインに増えるのは困るなあ(笑)。

どこで買ったのかは覚えていないけど、どうして買ったのかは覚えている。当時、『Vintage and Evil』を執筆していて、コンセプトに合う音源を色々と探していたのだ。
このバンドがVAEに合わないことくらい、彼らの世間での紹介のされ方やそのファン層を見てほぼわかっていたけど、一応バンド名がDioの名盤と同じだし、巷でも「80’sハードロック的な……」という感想が散見されたので、00年代以降のメジャーメタルでもAstral DoorsみたいなものだったらワンチャンVAE掲載もあるかと思って、一応入手してチェックしたという経緯。

で、一聴してすぐ「違う」と判断してお蔵入りになっていた本作、今回聴いてもやっぱりギンギンのメジャーメタル音質は私にとって少々辛いものでありながらも、今回は歌メロの良さが結構耳に届いてきた。アレンジを変えたら、北欧ポップスとしても通用するんじゃないかというくらい。耳がそんなモードになってみると、一部の曲のイントロなどにもそこはかとなく私が愛する80’s北欧ハードポップのオイニーをうっすらと感じることができて(あくまでも妄想レベルですが)、結構イイじゃない。(6月6日)

その10-Dungeon「Demolition」(1996)

オーストラリアのヘヴィメタルバンドによる1stと思っていたら、Metal Archivesによるとコンピレーションだとか。

いつ買ったのか覚えておらず、メロディック・パワーメタル系のバンドであることは知識として知っていても、その曲も音も記憶にないという、完全に棚の肥やしになっていたものをこのほどプレイ。

冒頭から、奥まったヴォーカル、音痩せしたようなギター、バスドラと金物がうるさいドラムが渾然一体となり、工具箱をひっくり返したかのごときサウンドプロダクションの下に疾走曲が飛び出してくる。全13曲で計64分もあることも相まって、「これは久々に聴き通せないアルバムかも……」と不安になったが、聴き進めていくと曲が結構良いことに加えて演奏技術がしっかりしていることも伝わってきて、「お、まあまあかな」を経て「かなり良いジャン」とまで感想が様変わりした。
そうなってくるとこのプロダクションも、音は違えどXの「Blue Blood」みたいな荒々しさの表現だと解釈できないこともないし、このプロダクションゆえかもしれないけどベースラインがハッキリ追えるのも美点だ。
「ヤング・ギター」の編集者がライナーで絶賛しており、そういう観点から聴くとこのギターの音はJason Beckerあたりの80’s速弾きギタリストがよく使ってた音色に似てるかも。まあいずれにしてもこのギターの音は苦手だわ!

曲については、欧州型のメロパワ的なものを基調としながら、このヤバいジャケットほどに浮世離れしてはおらず、LAメタル風の都会派なポップネスが時折顔を覗かせるところが好み。
しかし、やっぱり全13曲64分は長過ぎる。中盤の長尺のインスト曲と2曲のボーナストラックを削れば個人的には良い感じかな。(6月13日)

その11-Paintbox「Cry Of The Sheeps」(2001)

日本のハードコアパンクバンドによる、3rdアルバムに先駆けたシングル。

このバンドをここで取り上げるか迷ったけど、この週末は他に適切な音源を聴いていないのでこれにする。

Paintboxは私が今やっているNightwingsにおける、重要参考バンドのひとつだ(そういうバンドは他に、ざっと30バンドくらいはある)。
自分の中で一周、二周したバンドや、過去のWitchslaughtに関係することならある程度総括ができているので、少なくとも自分に関する事柄であれば言葉にできる。しかし、現在進行形で向き合っている物事に対しては、安易に言葉にすることで思考を固着させたくないという思いがある。まあ、スタジオでは滅茶苦茶話すんだけど。

というわけで今回は何も具体的なことは綴らないけれど、そんなときもあるということで。しかし標題曲は何度聞いてもアガります。(6月20日)

その12-Death Angel「Frolic Through The Park」(1988)

米国はカリフォルニア州のスラッシュメタルバンドによる2nd。
このバンドは、時々ファンクメタルになるところがイイのだ!(6月27日)

その13-Fair Warning「Brother’s Keeper」(2006)

90年代を代表するドイツのメロディアスハード神による、解散・再結成を経ての5th。

中学時代、健全なるHR/HM少年としてご多分に漏れず90年代の彼らの名作群にドップリ漬かった(その旨はかつてFacebookに書いたので、当該投稿を本項の下に掲載しておく)。高校進学以降は、グラインド/ドゥームなどのエクストリームなメタルに興味が移っていったため、本作の発売を情報として得てはいたけど購入には至らなかった。そんな作品をこのほど、新規オープンしたDISK UNION浦和店で格安で発掘。

「こういうのを待っていたんでしょう」と言わんばかりのFair Warning印な冒頭曲〝Don’t Keep Me Waiting〟、および続く楽曲の、往年の彼らを思わせる充実・安定ぶりに、見事な復活ダッ! とガッツボーズするというよりは、すでに本作自体が約20年前のものであるから「復活していたんだなあ」とやや引いた視点から感慨にふけることしきり。

しかし聴き進めるにつれ、音楽性としては往時の彼らに何も足さないばかりか(解散前は2人いたギタリストのうち、Andy Malecekが抜けていることもあって、むしろ減っている)縮小再生産気味の予定調和すぎる楽曲群にじれったさを感じ始める。
コード進行、メロディライン、リズムパターンなどのマンネリが気になり出すと、「don’t keep me waiting」だとか「promises you broken」だとか、彼らが過去の曲で使用してきた印象的な歌詞フレーズが随所で再使用されているのも、当人らの意図としては過去と今(2006年当時)を繋ぐセルフオマージュ的な意味合いなんだろうけれど、「な~んか語彙が少ないなあ」ってなネガティブな受け取り方もできちゃうし、そうなってくるとボーナストラックも含めて13曲も収録されているなかでほとんどの曲が実直にも5分前後とやや長めに録音されているのにも何だかイラッとしてしまう始末(謎)。

そもそも、世間的には最高傑作とされている3rd(アルバムの充実度としての最高傑作は1stだけど、音楽的に最高地点に到達したという意味では3rd。ちなみに個人的ベストは2nd)の時点で、一部の名曲を除くと、作曲における手駒の少なさは既に露呈していたと思うし、そこからさらに4thという佳作を絞り出していたことが奇跡的なことだったんじゃないかとも思われてくる。

なーんて人様の音楽を取り上げて偉そうに講釈を垂れているが、バンドマン、創作者たるもの、こうした批判的な言説がすべて脆刃の剣として自分に返ってくることを覚悟しなくてはならない。私とて、あと十年もすれば作曲がワンパターン化し、同様の誹りを受けることを免れないかもしれない。まさに絶望である! というわけで呑むしかない!(Ⓒ山崎文庫)(7月4日)

おまけ-Fair Warning「Fair Warning」(1992)
どうも今年は、新しい音源を購入することを極力控え、かつて聴いていたものを辿る追憶の旅を続けてしまっている。

このアルバムは前に聴いてから10年は経っていないと思うけど、久しぶりに聴くと染みるなあ。

中学時代、Black Sabbath、Deep Purple、Rainbowの3大ブリティッシュハードが私のヒーローではあったものの、某B!誌あたりが猛プッシュしてくるところの「ハードロック」であるFair Warningのようなバンドも、ご多分に漏れず好きであった。やっぱり中坊の耳にとっては、こういうのが「ハードロック」だった。

大学進学以降、自身の「ハードロック」趣味をBlue Cheer、Grand Funk Railroad、Mountain、Budgie、Cactus、Bang、Sir Lord Baltimoreあたりの、60~70’sプロトメタル的ヘヴィロック路線に舵を切ってからは、めっきりFair Warningみたいなメロディアスハード的なものからは離れていたのだが、とにかくメロディが極上なので染みるモンは染みるね! 中学時代の思い出補正があるからなおさら。

思い出補正を除いても、ウリ・ロートの実弟であるジーノ・ロートとZenoをやっていたウレ・リトゲン(Ba.)が始めたバンドであるという系譜からして、正しくジャーマンロックのメロディアスサイドの血筋を継ぐバンドなんであるよな。マニアックな意味でのジャーマン臭さ(70年代のScorpionsみたいな)は、かなり希釈された音ではあるけれど。

名盤中の名盤とされるこの1stアルバムは、多くのリスナーがその哀愁の旋律を悶絶ポイントとして挙げるものの、冒頭曲が意外にもAC/DCのような始まり方をするのが面白い。

中学時代か高校時代、実家でFair Warningをかけていたら、横で聴いていた母親が「この暑苦しいボーカリスト(トミー・ハート)は常に全力で歌いすぎているがゆえに、どこが曲の盛り上がりどころなのかわからない」と指摘してきた。

確かにトミー・ハートは、曲の静かなパートであろうとハードなパートであろうと、常に肺活量のすべてを発声に注ぎ込むような歌い方をする。

当時の私の耳からすればそんなことは当たり前のことで、母親の耳が肥えていないだけだと思ったが、後にそうでもないということに気付く。

大学時代、サークルでBlue Oyster Cultの“Astronomy”をコピーしたことがあった。そのときのドラマーは、普段ポストロックとかをプレイしている男で、“Astronomy”がバラード調に始まるところを捉えて非常に繊細なタッチのドラムをプレイしてくれたのだが、これがちっとも良くない。ハードロックのダイナミズムが完全に殺されておる。

ドラムのことはよくわからないから、一緒にWitchslaughtをやっているドラマーであるYuに相談したら、「その子、リムショットしてる?」と言う。リムショットなんて言葉自体その時初めて耳にしたし、一口にリムショットと言っても色々あるらしいのだが、ここでYuが言っていたのは「スネアを叩くときに、スネアの縁の金属の部分も一緒に叩いて大きな音を出す技」のことである。

さっそく次の練習のときに、ドラマーの子に「スネアは常にリムショットしてくれ」と言ったら、彼の常識では「常にリムショットなんてとんでもない!」ということだったらしくてひと悶着あったのだが、しぶしぶ彼が従ってくれたら楽曲にダイナミズムが生まれ、アンサンブルもグッと引き締まって格段に良くなった。

“Astronomy”を全部リムショットで叩くことが本当に正解なのかはよくわからないけど、ハードロック、ヘヴィメタル、ハードコアパンクなどの〝激音ロック〟は基本的に常に音量MAX! 常に高出力! 常にフルパワー(フィジカル面でも精神面でも)! でやることが善とされていて、その世界だけに生きていたらもうそれが基本動作となっているからそれ以外の選択肢など考えもしなかったのだけど、別ジャンルから来た人にとってそれは当たり前ではないし、ときに奇妙に映ることもあるという良い学びの機会になった。

話の回り道が長くなったが、だからトミー・ハートの歌い方に奇妙さを感じた母親の耳も、あながち狂ってるわけではなかったということ。

余談も余談ですが今私がやっているバンド・Nightwingsでは、「必ずしも常にフルパワーにしない」ということをいくつかある裏テーマのひとつとして、ひっそりと研究しながらやっております。

しかしトミー・ハートのボーカルに関しては、何かの雑誌かライナーノーツかで読んだのだが、ロニー・ジェイムズ・ディオを尊敬しているということらしいですね。常に全力フルパワーのヴィヴラート唱法も納得であります。

私はこのアルバムだと“When Love Fails”と“Long Gone”が好きです。(2022年8月30日)

その14-Dreamtide「Dreams For The Daring」(2003)

ドイツのメロディアスハードロックバンドによる2nd。

前回取り上げたFair Warningが解散状態にあったとき、各メンバーはそれぞれの活動に進んだ。Tommy Heart(Vo.)はSoul Doctor、Andy Malecek(Gt.)はLast Autumn’s Dream、そしてHelge Engelke(Gt.)とC.C.Behrens(Dr.)はこのDreamtideに。

中学時代に聴いていたバンド/ミュージシャンの、リアルタイムでは追わなかった「その後」を辿ってみるのがささやかなマイブームで、Last Autumn’s DreamとDreamtideはここ1年ほどの間に安く手に入れて聴いてみた。

Soul Doctorは高校か大学くらいの時に聴いた気がするが、クラシックなロックバイブスを強調したつくりが期待したものと違っていて、当時はリピートに至らなかった。今聴いたらまた違うかもしれない(ただ、盤が見当たらない。売ったのかも)。
Last Autumn’s Dreamは哀愁のメロディアスハードを、DreamtideはFair Warningの大仰な部分を抽出したような音楽をそれぞれプレイしており、こうして俯瞰してみるとFair Warningがもつ音楽的要素が見事にSoul Doctor、Last Autumn’s Dream、Dreamtideに分解されていたのだなと感じる。

さて、私はドイツのメロディアスハード仏(神というよりは仏)のZenoを心から愛しているから、Zenoでベースを弾いていたUle Ritgenを擁するFair Warningにもかなりの愛着を感じている。じゃあそのFair Warningでメインソングライターの1人だったHelge Engelkeが率いるDreamtideが同様に琴線に触れるかと言うと、全然そんなことはなかった。
前述のSoul Doctor、Last Autumn’s Dreamを含む3バンドの中では最もFair Warningに近い音楽性で、一聴して耳を惹くメロディや一緒に歌いたくなるサビも散見されるけれど、その〝Fair Warning性〟は私がFair Warningを聴く上で「垢抜けなくてダサいなあ」と思っていた要素ばかりだ。
例えば、後期Fair Warningにみられた大仰でボワンとしたサウンドプロダクション、囁き声みたいな中性的なコーラス、クセの強いキーボードワーク、スカイギターの高フレットの多用などなど……。私がFair Warningで苦手だと思っていた部分はHelge Engelkeが担っていたんだとよくわかった(笑)。

そもそも私がFair Warningで好きだったのは、〝Out On The Run〟とか〝Burning Heart〟みたいに力みまくったハード路線の曲じゃなくて、〝The Heart Of Summer〟とか〝Pictures Of Love〟みたいな哀愁ポップ路線の曲だ。クレジットによればこれらの作曲がAndy Malcekだったわけではないようだが、彼が率いるLast Autumn’s DreamはややFair Warningとはメロディの風合いが異なるものの、まさに前掲曲のような心地よき哀愁を湛えたアダルトテイストなメロディアスハードが満載で非常によろしい(しかも1stで〝Pictures Of Love〟をカバーしている!)。Andy Malcek以外のメンバーで再結成したFair Warningの復活作(「その13」で紹介)がピンと来なかったのもさもありなんという感じだ。

Last Autumn’s Dreamはアルバムもたくさん出ているし、今後のZeno由来のメロディアスハード養分の補給は、遠縁だけどこのバンドに担ってもらうことにしよう(アレッ、Dreamtideの記事のはずがLast Autumn’s Dreamの話になっちゃった!)。(7月11日)