今年は『酩酊と幻惑ロック』番外編コラムを東京キララ社さんのnoteで書かせていただきました。編集・著者の杉本さんの分と合わせて全8回です。まだ読んでいない方は年末年始の暇つぶしにぜひ。
第1回「私のドゥーム入門 その1 【杉本】」
第2回「ドゥーム/ストーナー/スラッジ入門 : あえての変化球 【加藤】」
第3回「メタルな俺とパンクス友人の感性の違い【杉本】」
第4回「ドゥームと映画 【加藤】」
第5回「Panteraの元ネタはCandlemassなのか?―アングラメタルの血脈【杉本】」
第6回「Queens of the Stone Age 『Songs for the Deaf』の衝撃【加藤】」
第7回「ドゥーム四天王を選んでみた。からの『四天王を全部好きな人いない説』を検証してみた【杉本】」
第8回「ドゥーム/ストーナー/スラッジ アートワーク大特集【加藤】」
ドゥーム/ストーナー/スラッジ界隈のニュースとしては、Acid Bathの再結成と、年の瀬にもたらされたElectric Wizardの「アルバムは次が最後」宣言(含みがありそう)でしょうか。来年は何があるかな。とりあえずDax Riggsの新作が楽しみです。
Monkey3 – Welcome to the Machine
スイスはローザンヌのインストゥルメンタル・バンドの7thで、「機械と人類の対立」をテーマにした作品。サイケ/ストーナー、ポストロック/メタル、そしてエレクトロニック・ミュージックーーすべてがPink Floydを軸に収斂と膨張を繰り返す同心円的な広がりを感じさせる構成と、ボーグに同化されてたPink Floydが集合体から切り離されてアイデンティに苦悩しているようなドラマ性が融合した大傑作。新機軸と言えそうなトリップホップ(Massive Attackなどロック色の強いやつ)風の展開もスムーズに彼らのスタイルへと収束されていく。ジャケはどう見てもボーグ・キューブ。ロキュータス。セブンオブナイン。なお公式のリリース文には『マトリックス』、『2001年宇宙の旅』、『惑星ソラリス』などの名前が挙げられています。『スタートレック』はありませんでした。3曲目”Kali Yuga”は今年のベストトラック。
例年、特に順位などは特につけていないのですが、今年は本作と次のUncle Acidをとにかくよく聴いたな、という印象です。アルバムとしても曲単位でも満足度が高く、私の「ツボ」にハマった作品でした。
Uncle Acid & The Deadbeats – Nell’ ora blu
70年代イタリアのジャッロ映画などからインスパイアされたという6th。俳優のフランコ・ネロ、エドウィジュ・フェネシュらがセリフでゲスト参加。邦題は『血ぞめのブルーアワー』。ジャッロ映画などの音楽ーーGoblinなどのプログレッシヴロック、ジャズ、ボサノバやラウンジ・ミュージックに、プロトメタルを練り込んだスタイル。「カウチロック状態のGoat」といった趣もあるし、Pink Floydの影も見える。セリフを交えたスキット的な曲でもしっかりと聴かせる作りになっていて細部へのこだわりが光っています。サイケな白昼夢がドゥーミーな悪夢へと変成していく中盤から後半にかけての展開が個人的ハイライト。
余談になりますが、『酩酊と幻惑ロック』にGhostface Killah『Twelve Reasons to Die』(2013年)という作品が掲載されています。ヒップホップのアルバムではあるけど、本作と同じくジャッロ映画とその音楽から影響を受けた作品で、70年代のロックも聴くドゥーム/ストーナー・ファンなら絶対好きなはず!と思って選盤したのですが、本作でそれに対する「アンサー」をもらった気分になりました。入れといてよかった。
Slift – Ilion
フランスはトゥールーズのヘヴィースペースロック・トリオによる3rd。現行で一番勢いのあるバンドではないだろうか。前作も十分にパワフルだったが、本作はそれに輪をかけた轟音。ドライブ感よりも性急なテンションが強調されている。”Illion”〜”The World That Have Never Been Heard”の前半3曲で私はもうヘトヘトである。前作が宇宙船(ワープ・エンジン付き)での旅なら、本作は身一つで恒星間戦争の最前線に放り出されたかのようだ。その後もメリハリの効いた=弛緩する暇を与えない展開で眩暈がする。しかしどんなに疲弊しても、星の瞬きのようなGt.のアルペジオに導かれ、「天上の歌声」に鼓舞されながら終焉に突き進む”The Story That Has Never Been Told”で迎えるクライマックスは圧巻だ。エピローグ(そう解釈した)の”Enter The Loop”は……もう一周しろってことかな。
Druid Stone – Undead Poets Society
”transexual acid rock”を掲げる、Satan’s Satyrsにも在籍していたThe GhoulことDemeter Capsalisによるワンマン・バンドの4th。『Witchcult Today』〜『Black Masses』期のElectric WizardをSatan’s Satyrsを経由してBoredomsに繋いだようなローファイ・アシッド・ノイズ・ドゥームロック。グシャグシャの音像の中からシューゲイザー風の甘い歌メロやドゥーム・リフが浮いたり沈んだりする様がなんとも不穏で愛らしい。Neil Youngのカバーもあるよ。
Satan’s Satyrs – After Dark
Clayton Burgess(Vo.、Ba.)率いるバンドの6年ぶり5枚目のアルバム。本作からMirror QueenのMorgan McDaniel(Gt.)が加入している。サムシング・ウィアードなドゥームパンクはそのままに「アメリカ西部の情景」を意識したという乾いた音作りと(比較的)地に足のついた作風になっている。カルト・ホラー映画『恐怖の足跡』の「続編のような曲」だというA面ラスト”Saltair Burns”やB面のドゥーミーでダークな曲が素晴らしい。個人的にはUncle Acidと対比して聴いて楽しんでいます。どちらも2010年代前半に「ヴィンテージ」、「レトロ」、「ガレージ」と言ったキーワード、そしてホラーやエクスロイテーション映画のイメージを纏って登場し、確かな影響を後続に与えたバンドです(知名度には差があるかもしれないが)。両者のスタイルの違いが欧州と米国のエクスプロテーション映画のムードの違いが反映されているかのよう。
Iota – pentasomnia
アメリカはユタ州ソルトレイクのトリオによる16年ぶりの2nd。タイトルは「五つの夢」の意。ドゥーム/ストーナー/スラッジ/サイケを巧みに混合したカルト的人気を誇る前作『Tales』(2008年)にあった00年代スラッジメタルの要素が薄れて、メロディが大幅に増加。DwellersやSubRosa〜The Otolithなどでの活動を経た上での作風と言えよう。目新しさは無いが、そもそもこの手のスタイルの元祖がこの人たちなんじゃないか。Sleepの『Sciences』(2018年)を聴いた時にも似た感覚を覚えた。
Gnome – Vestiges of Verumex Visidrome
ベルギーはアントワープのトリオによる3rd。ブルーズ・ベースのドゥーム/ストーナーにPrimusやKing Crimsonを注入したプログレッシヴでオルタナティヴなストーナー。頭の柔らかさを感じさせるひねりの効いた構成もさることながら、「小人」とは思えぬ強靭で図太いグルーヴも聴きどころ。気負ったようなところはなく、ストーナーの”Fun”な部分の延長でプログレッシヴなことをやっているような自然なアプローチだ。何よりキャッチーで耳に残るメロディが魅力的。インタビューからも楽しむことを第一としている姿勢が伝わってくる。「(自分たちがやっているのは)Stoner rocki-ish Metalだよ」とすんなり答えているところも良いですね。ドゥーム/ストーナーの「枠を超えた」と表現すると、まるでこの手のジャンルには伸び代が無いみたいなので、「枠を拡げた」と表現しておきます。
Goat – Goat
こいつ毎年Goat入れてんな。毎年出るからだよ!! 本作はヘヴィサイケ”One More Death”、ダーティーなファンク”Dollar Bill”、ヒップホップ風の”Zombie”、ブレイクビーツを導入した”Ouroboros”など即効性の高い楽曲が際立っている。
Black Sky Giant – The Red Chariot Independent
アルゼンチンはサンタフェ州ロサリオのインストゥルメンタル・バンド(?)による6th。緩慢で浮遊感を湛えたストーナー/デザートロック〜スペースロックを主軸にポストパンク調の曲を配した構成が特徴的で、ドゥーム/ストーナー耳には新鮮に響く。1曲目聴いた時は「The Cureか?」となりました。バカっぽいジャケに反してミスティックな佇まいなのが魅力的だ。なお、どのアルバムにも「あらすじ」(bandcampのページを参照されたし)があるのだが、本作はポスト・アポカリプス的世界観のファンタジーのようだ。
Dopethrone – Broke Sabbath
カナダ・モントリオールのバンドによる6th。ズルズルとした引き摺りは控えめ、うっすらサイケデリック感もあるが、前作『RANSCANADIAN ANGER』(2018年)でも見られた疾走感ととバウンシーなグルーヴがさらに強化された。Thouの新作とは別方向でキャッチー&ウルトラバイオレントなスラッジコア。
Greenleaf – The Head & The Habit
Dozerともメンバーを共有するスウェーデンのベテラン・バンドによる9th。哀愁漂うメロディとブルース・ベースのリフ、タイトで手数の多いDr.という彼らが生み出した方程式に則った北欧型ストーナーをプレイ。本作ではDozerにいくら通ったようなソリッドな音像にシフト。”Breath, Breathe Out”、”Different Horses”、”The Obsidian Grin”など一回聴いただけでも口ずさんでしまうような親しみやすさとフックの数々が素晴らしい。去年出たDozerのアルバム、下のYoung Acidと一緒によく聴きました。
Young Acid – Murder At Maple Mountains
GreenleafのArvid Hällagård(Vo.)、DomkraftのMartin Wegeland(Ba.)、The Moth GathererのAlex Stjernfedlt(Gt.)らスウェーデン地下音楽界のミュージシャンらによって結成された”garage rock alliance”の1st。ソリッドなパンクロック主体ながら隠しきれないストーナー/ブルーズ魂がポロリしちゃっており、Grennleafのアルバムに入っていてもおかしく無いような曲もちらほら。Greenleafをメインストリーム寄りのガレージロック〜Queens of the Stone Ageに寄せたような作風。
Young Hunter – Bleeding Gold
アメリカはオレゴン州ポートランドのバンドによる3rd。基本的な路線は変わらない。男女ツインVo.をフィーチュアした英国風HR/HM〜ドゥームを60年代のサイケ、フォークロック包み込んだサイケデリックメタル。なのだが、H R\HM的なダイナミズムが薄れて(あるにはある)より緩慢な作りに。前作と前々作が比べると……と思ったのだが、気づけば何度も聴いていて、歌メロを口ずさんでいたりする。不思議な作品です。単に前作と前々作が好きすぎただけなのかもしれないが。
Jessica Pratt – Here in the Pitch
至福。ミニマルなフォークにジャズやボサノバなどを取り入れた作風は前作に比べれば幾分地に足がついている。それでもつま先でスキップできそうなほど重力が軽い。しかし全9曲27分は短すぎる。ていうか終わるな。終わらないでくれ。
※コメントありはここまで。
Thou – Umbilical
Magick Potion – Magick Potion
Beth Gibbons -Lives Outgrown
Earth Tongue – Great Haunting
The Black Furs – Songs About Lust and Self Destruction
Body Count – Merciless
High On Fire – Cometh The Storm
The Obsessed – Gilded Sorrow
MaidaVale – Sun Dog
Floaters – OSTRAGISMO
Toadliquor -Back In The Hole
Iron Monkey -Spleen & Goad