アンダーグラウンドの表現者はムラがある―Hebi Katana×岡崎幸人(Studio Zen) アルバム制作記念対談【前編】

〝Tokyo Samurai Doom〟を謳い、精力的なライブでアンダーグラウンドシーンにおける存在感を増しているHebi Katanaが、2月23日に2ndアルバム「Impermanence-無常」をUnforgiven Bloodからリリースした。プロデュースを手がけたのは、Studio Zen(名古屋・名東区)を経営し、Eternal Elysiumを率いて世界のヘヴィロックシーンに名を轟かせる岡崎幸人氏だ。Hebi KatanaのNobu氏(Gt. & Vo.)とYasuzo氏(Ba.)、そして岡崎氏が、「Impermanence-無常」の制作について振り返った。和製ドゥームの新進気鋭とレジェンドによる対談を前後編で掲載する。(Tranquilized Magazine編集部)

左からNobu、Yasuzo、岡崎の各氏 2月19日、名古屋のStudio Zenで


アンダーグラウンドの表現者はムラがある
Hebi Katana×岡崎幸人(Studio Zen) アルバム制作記念対談
【前編】

Nobu Hebi Katanaと岡崎さんの対談を開始いたします。よろしくお願いいたします。さっそく、「Impermanence-無常」についてお話できればと思います。

 まずこちらから、岡崎さんにファーストコンタクトを行いました。Hebi Katanaですとお話して、レコーディングを考えてます、と。去年の夏くらいに連絡して、秋に正式にお願いしました。そのときの第一印象は、どう思われたのでしょうか。

岡崎 正直、バンド名は知っていたけど、音は知らなかったです。ただ、自分にコンタクトをくれる人はどこかで僕の音と繋がってくれているはずだと。音楽的な好みは近いよなっていう予感めいたものがありましたし、運命的なものを感じましたよ。

Nobu Yasuzoさんには僕のほうから、岡崎さんにお願いしたいというのを伝えていたと思うのですが、そのときの印象は?

Yasuzo いやもう、参考音源で岡崎さんの音を聴かせてもらって、お任せでっていう感じでしたね。

岡崎 音で伝わってるっていうのは良いですね。ありがとうございます。

Nobu 僕は色々ありまして。まず、「ペキンパー」(オルタナパブリッシング)という雑誌がありまして、ここに岡崎さんが頻繁に登場するんですよ。ドゥーム/ストーナーを濃厚に載せている雑誌でして、岡崎さんが寄稿されたコラム「名古屋以西のドゥームロック事情」(Vol.5収録)や、ディスクガイド『Vintage and Evil』(編著=杉本憲史、オルタナパブリッシング)などでもEternal Elysiumが登場していたりと、その名を見ていました。この2冊は自身の好きな音楽の探求という意味でもたくさん読んでいまして、そういった経緯もありお願いしたところがあります。

 あとは、Eternal Elysiumの最新作「Resonance Of Shadows」(Cornucopia Records)が好きというのが決め手でしたね。

岡崎 最新と言いつつもう6年経つんですけど。やばいね(笑)。

Nobu 僕はこの作品の音が大好きで。

岡崎 ありがとう!

Nobu テキストでのやり取りのときにもお伝えしたんですが、もうこのアルバムの音にしてくださいっていいましたもん。全面の信頼を寄せてお願いしました。

岡崎 生演奏の醍醐味にスパイスを加えるのが僕自身の作品に対するアプローチだったんだけど、言ってくれた意味は伝わりましたよ。だから、今後の演奏力の向上に伴う、さらなる進化が楽しみです。

Nobu、Yasuzo ありがとうございます。

Nobu Hebi Katanaは、今回の2作目で岡崎さんにプロデュースからお願いしたわけですが、1stアルバム「Hebi Katana」(Unforgiven Blood)はそれに際して聴かれましたでしょうか?

岡崎 ざっくりとね。一回聴いてね。でもそれ以上はあえて深く聴かないようにした。バンドとしてのカラーは出ているとは思ったけど、同じ作風を狙う必要もまったくないと思って、前の作品を取材し過ぎず意識もしないようにと。東京で録音された新作の素材がStudio Zenに来て、最初に聴いたときにどう感じるかを大事にしたくてね。第一印象をね。

 そしたらあれですよ(笑)。君たちは実はクサいメロディーが大好きなのがわかって、我々日本人に共通する侘び寂びも感じて。ミックスではそれを前に出したいなと思いましたね。

 1stを聴いた印象は、全体的なトーンは良くできてると思いました。デジタルならではのトーンが醸し出すテクスチャー。良い悪いではなく、それが東京の個性でもあり。だから〝Tokyo Samurai Doom〟ってフレーズ、あたってるなと思って。それが「江戸」ではなく、「トーキョー」っていう。

 そういうテクスチャーがね。エレクトリック感というかね。そういうトーンの揃い方をしていたから、録音のプロセスとか機材もおそらくこうだったんじゃないかなって想像がついて。

 でも、実際やってる音楽には違うアプローチのプロセッシングもアリじゃないかとも感じて。

Nobu Yasuzoさんはどうでしょうか。1stと2ndの違いというか、レコーディングが始まるまでの間の時期でスタンスや心境の変化、こういう作品にしようという思いはありましたか?

Yasuzo 1stのときはNobuのデモがすでにあって、その段階でざっくり以上のレベルでベースラインとかも全部入ってて、アレンジの余地がもうないというか。だからもうそれをなぞってコピーというか、それに少し付加価値を加えるくらいしかベースの仕事がないというか。

 一方、2ndはもう最初からベースとして関わっているから自分の個性も出したくて、デモもベースなしの状態でっていう風に伝えていて。

 だから、僕のなかのスタンスでは1stと2ndはまったく別物と言っていいのかもしれません。

岡崎 2ndは仕事してますよ。

Yasuzo ありがとうございます。

岡崎 メロディにしろ、常に何か表現しているよね。だから、前作は引きで今回は押しなのかなと。

Nobu じゃあ姿勢的には間逆だと。

Yasuzo そうですね。

Nobu 2ndの曲も書いた時期に結構開きがあって、1stがリリースされる前にできていた曲や、逆にレコーディング直前にできた曲もあって。さっき浮かんできた歌とギターのコードのみという、弾き語り状態のデモだった曲もありましたし。

Yasuzo 結局その間、ドラマーのチェンジなどもあってベースラインが定まらなかったというのもあり。もう最終的にサポートのPatrickのドラムに合わせてぎりぎりでプリプロで詰めて。下手したらレコーディングしながらアレンジしていたという感じですね。かなりふわっとした期間でしたね。

岡崎 おそらく大変だったと思うけど、プラスに考えればある意味Patrickがシンプルなドラムプレイに徹したことでかなりスペースが生まれたからこそ、自らのアレンジ能力が引き出されたのはあったんじゃないかな。責任感も重大だっただろうから。良い仕事してますよ。本当に。

 ベースが一個根底にグルーヴとなる部分をつくってくれてたし、頼りになるところや寄っかかれる部分があったから、こちらもベースを軸にしてつくってました。

 楽器自体は互いに良いバランスで存在感があると思うし。何かが突出しているわけではなく、良いバランス。だからまとまった良い作品になったと思いますよ。色々あったんだと思うけど、今こうやって聴いてみるとね(笑)。

最初に聴いたラフミックスに困惑したと語る岡崎氏

Nobu 実際のレコーディングはどうでしたか? 岡崎さんに送る前の段階というか。

Yasuzo えーとね、僕は自宅にこもってベースを1人でレコーディングしていたので、ベースが9割くらい録れたところでギターの上物(うわもの)と歌入れっていうところでしたね。10日間くらい、とにかくこもってましたね。

岡崎 このコロナ禍において(笑)。リアルドゥームですね。

Nobu 確か岡崎さんへの提出の締め切りが決まっていたので、苦しかったですね。締め切りが迫っているのにアレンジは詰まってないという。そのような流れを経て岡崎さんへ音源を送ったのですが、聴いてみてどうでしたか?

岡崎 笑っちゃった(笑)。

 いやいや、音楽を笑ったんじゃなくて、ラフミックスをつくってくるにしても、もうちょっとないかって思ったよ正直(笑)。仕方ないけどね。自分たちで録ったんでしょ?

 録音って普通にただ録るのは難しくはないよね。マイク立ててケーブル繋いでボタンを押せばとりあえず記録できる。その意味では、最低限はできてるとは思ったけど……。そのまま手を加えずにMixに入れるような音で録るのは、簡単ではないですから。

 最初に思ったのは、素材を1つずつ磨いてから持ち上げて……とか、仕事量多くなりそう……とか。でも不思議と苦じゃなかったね。何とかしたいという気持ちの方が強かったかな。

 トップのマイクどこいったの? とか、狙ってそういう音なのか? とか思ったよ(笑)。ヴィンテージドゥーム感狙いなのか、またはもっとアヴァンギャルドに〝逆・陳信輝ソロ的サウンド〟志向なのかなとか……一瞬考え過ぎた(笑)。それくらい、ラフミックスがひどいバランスで面白いんだよ。キックがいないとか。だから色々考えちゃってさ。でもそれがラフミックス聴いた第一印象。

Nobu じゃあ正直困惑したという(笑)? バンドサウンド全体としてどっちにもっていけば良いかわからなかった感じですか?

岡崎 でも最近はこういうシチュエーションに慣れてきてたんだよね。こういう形態、つまり、他の場所で録って僕がミックスから参加するという流れに。ここで録ってれば当たり前にできることが、当たり前ではない場合があるというか……ね。

 音の良し悪しではなくてね。そういうのを含めてすべて受け止める気持ちでいつもこちらはやっているけども。にしても録音レベル小さすぎるでしょとか(笑)。

 ミックスしていくなかで肉づけしていく必要があるなとか、そういったことを早々と思って。それでも、つくっていくうちにそういった視点で物事を見ていくとアイデアが生まれてくるのも事実で、面白くなってきてね。仕事感覚が減るというか。

Nobu 自分のものに近い感覚になってくるというか。

岡崎 そう。キャンバスに色を塗る感覚というか。そこでまた新たな色が生まれてくる感覚かな。

 制作って、ディレクションやプロデュースがすでにあると、仕事モードのエンジニアリングになって作業的になる恐れもありますから。だから、そうならないように気を付けていて。僕の仕事はメジャー中心じゃなく、ずっとアンダーグラウンドで繋いできてるんでね。

 インディーズの音源って、良く言えば個性がそのまま出ているものだと思うし、あるいは何か足りなくてもそのままかたちになっているものもあるよね。アンダーグラウンドの表現者は僕を含めてムラがある(笑)。

 その点、今回コロナ禍による制限下での制作になったのは、音源制作に集中できた意味では良かったかもしれないね。ドゥーム的に考えれば、この終わりのない、出口のないトンネルはいつ終わるんだろうかみたいな思考に繋がるわけですから。リアルドゥームだよね。

Nobu もがいているというか。

岡崎 ただ君たちは、心の闇の表現という感じではないよね。そこまでサウンドもエッジを利かせすぎないし。

Nobu 同じドゥームでもデス寄りのアプローチは皆無だったりしますしね。暗黒感は薄いですね。

岡崎 そういうものに対してのリスペクトはもちろんあるんだろうけど、おそらく君たちが目指しているところは獣(けもの)感ではないし、心の鬱積の発散というわけでもないし、ざっくりと言うと多様なアート感が入っているというか。

 〝Tokyo Samurai Doom〟なのに、こういう曲やっていいの? があるよね。少なくとも2曲は。その冒険心、好きですね。

Nobu、Yasuzo ありがとうございます!

Nobu そのまま僕らのラフミックスをお渡しして、間もなく1st Mixが届きまして、確か“Devastator”と‟Take My Pills”だったと思うのですが、そのとき僕を含めて、Yasuzoさんもどういう感触だったかをお聞きできればと思います。岡崎さんのほうでもラフミックスからどのようにして1st Mixまで漕ぎ着けたか、プロセスをお聞かせください。

岡崎 まずはそれぞれのトラックがどういう風になっているか、全貌を確認しましたね。

 その後は、僕の基本パターンですが、ドラムセットから音像をつくるわけです。レコーディング風景を想像しながら。そこからベース、ギターという風に乗せていくやり方ですね。結構スタンダードなやり方かと。デッサンを整えてから色づけしていくような。そのための基本の骨組みを整える、と。

 そこからはもう音楽が見えてきたので早かったですね、1st Mixまでは。周波数帯域のこととか色々ありましたけど、景色として、ひとつの絵として見えてきたので、その段階で1st Mixを送りました。

Nobu 実は僕はその1st Mixを聴いたときにはもう、「絶対良い作品になる!」って思ってました。あれと完成形はもちろん違うのですが、僕のなかでは8割くらいは最終形のイメージもできたし。あのときは素直に嬉しかったですね。

岡崎 君たちがそういう演奏をしてたんだよ。僕はそれをどうまとめて聴かせて演出するかを考えてまとめる役割。別にタイムラインいじってないからね。あ、ぶっちゃけドラムは少しいじりました(笑)。手助けはしました。でも最小限にとどめてます。

 ほかにヤバいところも残ってるじゃん? それはあえて残したの。そっちのほうが人間っぽいから。このバンドは次もあるんでね。だってBlack SabbathでもBill Wardはまれにコケてるんですよ。マニアックな聴き方するとわかる。え!? っていう珍プレーが残ってる(笑)。でもそれが味。そういうのは残しました。

Yasuzo 僕、確か1st Mixでもう満足していた気が(笑)。

Nobu 早いですね(笑)。

Yasuzo もうこれ以上求める必要はないというか、もう十分だ、でき上がってると思いましたね。全然大満足でしたから。その時点で本当に岡崎さんにお願いしてよかったと思いましたよ。ありがたい限りです。

岡崎 良かったーありがとう! 通じ合っちゃったね(笑)。

■後編

自分が影響を受けたものを、自分でもう一度表現したい―Hebi Katana×岡崎幸人(Studio Zen) アルバム制作記念対談【後編】

Hebi Katana(左から現ドラマーのMax、Yasuzo、Nobuの各氏)
Hebi Katana「Impermanence-無常」(Unforgiven Blood) 2月23日発売 税抜2500円