5月10日、東京キララ社のイベントスペース・神保町RRRで『ドゥームメタル・ガイドブック』(パブリブ)の刊行を記念したイベント、「激重・激遅・激渋VS酩酊と幻惑 真昼間っから重低音メタル大視聴会」が開催された。イベントの前半では、『ドゥームメタル・ガイドブック』の著者である松尾信仁氏と、『酩酊と幻惑ロック』(東京キララ社)の制作者で当メディアの運営者である加藤隆雅・杉本憲史によるトークショーが行われた。両書の刊行経緯などを詳しく語ったトークの模様を、前後編にわたって掲載する。(Tranquilized Magazine編集部)

「激重・激遅・激渋 VS 酩酊と幻惑」トーク
【後編】
「ペキンパー」から『酩酊と幻惑ロック』まで
松尾 加藤さんと杉本さんは、『酩酊と幻惑ロック』や『Vintage and Evil』で、共著というかたちで一緒に本づくりをされています。加藤さんと杉本さんはどのような繋がりなのですか。
加藤 もともと私は、『Vintage and Evil』を出版したオルタナパブリッシングに勤めていました。そこで月に1回、「クラブペキンパー」というオープンな飲み会をやっていたんです。会社の飲み会だけど、誰が来てもいいという。その場がきっかけですね。
杉本 「クラブペキンパー」というイベント名は、オルタナパブリッシングが刊行していた「ペキンパー」という雑誌の名前から来ているんですよね。この「ペキンパー」というのは、「ブルータルマガジン」をキャッチコピーに、オルタナパブリッシングの社長である川保天骨氏の興味関心が強く反映された雑誌でした。格闘技からドゥームからエログロまで何でも扱う、1990年代の鬼畜系サブカル雑誌の2010年代版みたいな。そして加藤君が「ペキンパー」に途中から編集として携わるようになり、「ペキンパー」Vol.5で全面的に自分のカラーを出して、1冊ほぼ丸ごとドゥームという号を作った。
松尾 僕もその号は滅茶苦茶読みました。
杉本 このVol.5に加藤君による「ドゥーム/ストーナー/スラッジ名盤ディスク・ガイド2015」が載っていて。当時の僕は、後に『Vintage and Evil』になる原稿を、出版するあてもなく書いていたんです。そうしたなか、僕と年齢が近そうな加藤君が「ペキンパー」Vol.5で非常に解像度の高いディスクガイドを書いていたのを読んで、まず「やられた」感があって。でも次に、「どうせならお近付きになって仲間になれないか」と思って。そしたら、「ペキンパー」に携わる人たちが月1回、中野で「クラブペキンパー」という怪しい飲み会を開催していると知って、飛び込みで飲みに行ったというのが、出会いのきっかけです。でも、最初はすごく入りにくかったですよ(笑)。
加藤 どうなんでしょうねえ(笑)。そんなにひどい雰囲気じゃないと思うんですけど(笑)。
<会場にいた外山鉛氏(沈む鉛、中学生棺桶)が飛び込みで登壇する>
鉛 最悪な感じでしたよ(笑)。
加藤 あ、鉛君と出会ったのも「クラブペキンパー」でしたね。
鉛 『酩酊と幻惑ロック』にも20枚ほど書かせて頂いた外山鉛と申します。で、「クラブペキンパー」は最悪でした(笑)!
会場 (笑)。
松尾 「クラブペキンパー」はどこでやっていたんですか。
杉本 中野と新井薬師の中間にある商店街に、飲み屋が集積している雑居ビルがあるんです。その地下の一室に「ルナベース」というバーがあって、そこを貸し切りにしてやっていましたね。そこで、エロ本やサブカル系の出版の世界を生きてきた百戦錬磨の人たちが飲んでいる。Pink FloydやBlack Sabbathが爆音でかかってて。そこに僕が無理矢理入り込んで行って、加藤君と知り合いになった。その「クラブペキンパー」にコンスタントに足を運んで、飲み会がはけた後も早朝まで加藤君と2人で飲んだりするのを繰り返すなかで、僕が「実はこんなのを書いているんだけど……」と『Vintage and Evil』の話をしたら、加藤君が「うちでやりましょう」と言ってくれて。
加藤 杉本さんの話を聞いて、面白いと思ったんですよ。ジャンルに捉われずに概念で括るというのが。そこから社長に話を通すまでに色々ありましたけど。
松尾 『Vintage and Evil』から『酩酊と幻惑ロック』に至る経緯は。
加藤 もともと「ペキンパー」Vol.5のドゥーム特集を、「ペキンパー」の特集としてではなく独立したドゥーム系のディスクガイドとして出すつもりだったんです。それが色々あって「ペキンパー」の特集というかたちになった。
杉本 つまり、一冊まるごとドゥームの書籍をつくるというのが加藤君の悲願だった。『Vintage and Evil』は僕の企画なので僕が監修、加藤君が編集という座組だったのですが、『酩酊と幻惑ロック』は加藤君の企画なので、そこの役割分担をチェンジして。そうこうしているうちにオルタナパブリッシングがなくなり、企画が宙ぶらりんになってしまった。それで出版社を探すなかで僕が東京キララ社に持ち込み、刊行をご承諾頂いたという経緯です。
松尾 色々な方がレビューを書かれていますよね。
杉本 バンドマンやレコードショップで働く方など、現場の人が多い人選です。現場でライブなどをやっていると今のシーンの感じをつかみやすいし、新しいバンドが登場するときはまずデモテープとかが出回るじゃないですか。そういうところから新しいバンドの情報をキャッチして紹介できれば、現場の熱量を伝えられると思い、普段ライブハウスに出入りしている人たちを中心に、執筆や情報提供をお願いしました。
松尾 かなりバラエティに富んだ内容の本です。
杉本 原稿も「クラブペキンパー」じゃないけれど「来るもの拒まず」の精神で載せていたので、わけのわからない本になりましたね。あえてそれを狙った部分もありますが。
【前編はこちら】
【お詫びと訂正】
先般お伝えしております通り、『酩酊と幻惑ロック』の下記の箇所に誤りがありました。
ご購入頂いた皆様、関係各位にお詫び申し上げます。
p.99(Candlemass)
誤「中心人物であるLeif Edling(Ba.)がヴォーカルを兼務」
正「Johan Längquistがヴォーカルを担当」
誤「Leifの歌唱スタイルを」
正「Johanの歌唱スタイルを」
p.111(Stillborn)
誤「Colossusを前身とし」
正「Colossusの前身であり」
松尾信仁
東京都出身。1990年生まれ。『ドゥームメタル・ガイドブック』(パブリブ)著者。国内外で活動するバンド・Hebi Katanaでギターとヴォーカルを担当。 ディスクユニオンのドゥーム/ストーナー系レーベル「Unforgiven Blood Records」を運営。「Tokyo Doom Fest」共同主催。
加藤隆雅
1988年生。『酩酊と幻惑ロック』(東京キララ社)監修・著者。『Vintage and Evil』(オルタナパブリッシング)編集・執筆。ドゥームレーベル「梵天レコード」の元主宰者で、現在はAmigara Vault名義でディストロ運営。ブルータルマガジン「ペキンパー」(オルタナパブリッシング)元編集。杉本とウェブメディア「Tranquilized Magazine」を共同運営。
杉本憲史
1986年生。『酩酊と幻惑ロック』(東京キララ社)編集・著者。Nightwings、Witchslaughtでバンド活動。編著書に『Vintage and Evil』(オルタナパブリッシング)。ブルータルマガジン「ペキンパー」Vol.6(オルタナパブリッシング)に執筆。加藤と「Tranquilized Magazine」を共同運営。出版業界紙「新文化」(新文化通信社)の記者。