〝Tokyo Samurai Doom〟を謳い、精力的なライブでアンダーグラウンドシーンにおける存在感を増しているHebi Katanaが、2月23日に2ndアルバム「Impermanence-無常」をUnforgiven Bloodからリリースした。プロデュースを手がけたのは、Studio Zen(名古屋・名東区)を経営し、Eternal Elysiumを率いて世界のヘヴィロックシーンに名を轟かせる岡崎幸人氏だ。Hebi KatanaのNobu氏(Gt. & Vo.)とYasuzo氏(Ba.)、そして岡崎氏が、「Impermanence-無常」の制作について振り返った。和製ドゥームの新進気鋭とレジェンドによる対談を前後編で掲載する。(Tranquilized Magazine編集部)
自分が影響を受けたものを、自分でもう一度表現したい
Hebi Katana×岡崎幸人(Studio Zen) アルバム制作記念対談
【後編】
■前編はこちら
アンダーグラウンドの表現者はムラがある―Hebi Katana×岡崎幸人(Studio Zen) アルバム制作記念対談【前編】
Nobu 最初に1st Mixが届けられた2曲(“Devastator”と“Take My Pills”)は、わりと僕らのなかでも歪んでてヘヴィな曲だったわけで、ただその後、2曲ほどアコギ主体のメロウな曲‟Running In My Vein”と‟Underneath The Sky”があったわけなんですが、これを聴いたときの印象はいかがでしたか? かなり毛色が違うと思うのですが。
岡崎 明らかに典型的なドゥーム/ストーナーのバンドの楽曲とは雰囲気が異なる曲。最初どんなトーンで行きたいのかなと思って。最初に僕にラフを送ってくれたときのイメージって、実際の仕上がりよりもヘヴィだったんじゃないの? 先にこっちから「この2曲はどういう風にしたいの」って聞いたんだっけ?
Nobu いや、確かこちらから「アコギも素材としてあります、よかったら使ってください」って言っただけだったと思います。最初は完全にお任せで、一回聴いてもらおうと。で、僕らのなかでもどういう風にもっていこうか定まってなかったというか。そこで何回かやり取りさせていただいて。
岡崎 正直わかんなくて。いやこれやっちゃって良いのかどうかっていう。冒険して良いのかどうか。だからとりあえず、ライブのときにどういう風にやるのかなっていうのを考えて。それを考えて1st Mixにしていきましたね。
Nobu Yasuzoさんは、この2曲の1st Mixの印象はどうでしたでしょうか?
Yasuzo 僕はやっぱりベースをまず聴くのですが、1st Mixの時点でもう満足でしたけど、世界観的にどうでしたっけ? そんなに違ってたんでしたっけ?
Nobu どちらかと言うと、ほかのヘヴィな曲に近い印象を僕は受けて。アルバム全体の流れのなかに綺麗に収まっていると言うか。色として。
そこで僕が、もう少しアコースティック感を出してほしいという風に伝えて、ぶっちゃけるとThe Beatles好きなんで「ビートルズにしてください」と告白して。ドゥームバンドなのにそういう風に言って、「え?」ってなったらどうしようと思いながらでしたが。
The Beatlesの中期あたりっぽく、硬いアコギと歌を全面に出してほしいとぶつけてみたんですよ。これ大丈夫かな? と思いながら。
岡崎 何が「大丈夫かな?」と心配だったの?
Nobu 岡崎さんのディレクションと自分の希望のサウンドが、あまりにも違うと問題かなっていうのと。あとはドゥームなのにここまで振り切っちゃって、ジャンル的にアイデンティティとして大丈夫なのかという2つですね。ただ、ここは思い切って言ったほうが良いのではと思って。
岡崎 言ってくれて良かったよ。
Nobu Yasuzoさんにも相談してね。
岡崎 あ、踏み込んで良いんだと思ったよね。
Yasuzo でも、Recの上物(うわもの)入れてるときにもうThe Beatlesぽいねっていう話はしててね。これは勇気を出して言っちゃった方が良いっていう話は、した覚えがありますね。
岡崎 良い曲じゃないですか! Running in my vein♪(コーラスパートを歌う)
一同 (笑)。
Nobu、Yasuzo ありがとうございます。
Nobu コーラスの入れ方とかそのままって感じですもんね。
岡崎 全然アリだって。そういうワイドレンジというか。てか全然ワイドじゃないか。ロックなんだから。
Nobu そうですよね。ロックという目で見ればね。全部乗っかってきますしね。
岡崎 そうそう。全然入れてっちゃっていいし、過去の偉人の発明というか名作のメソッドを受け継ぐっていうのも全然アリだと思うし。それを引用する人も僕は認めたいし。好きなんでしょうって。そういう人ならではの得るものもあると思う。
Hebi Katanaは良い影響の受け方なんじゃないかって思ってて。別にThe Beatlesになりたいわけじゃないでしょ?
Nobu そうですね。なぞるっていうよりは、自分が影響を受けたものを、自分でもう一度表現したいっていう感じですかね。
岡崎 あの時代への憧憬。それは僕にも当然あるし、どんなアートも過去からの引用はむしろ積極的ですらあるよ。だから、恐れずもっと影響を素直に出しても構わないと思うよ。だからと言って、今現在のこの狂った世の中を生き抜くっていうようなリアルなテイストなんかが、サウンドから消えてしまうことなんかないと思うしね。
Nobu それは自然に出ちゃうものだと思いますよね。
岡崎 それが、今2022年? の、リアルなサウンドだってことにもなるでしょうからね。そこに色んな音楽の影響を混ぜていくことも自然で良いことだと思いますけどね。
Nobu 1stアルバムではこういう音じゃなきゃいけないというのが自分のなかにあって。このカテゴリーでやっていくからにはこのサウンドでしょみたいな。
岡崎 めちゃくちゃわかる。
Nobu 別にヘヴィじゃなくてもいいのにヘヴィなリフにしたりとか。ただ、2ndはわりと素のままやったというか。Yasuzoさんも前回と違うカラーを色濃く出していますし、前作との違いが出せていると思います。
岡崎 ナチュラルになって、ますます次が楽しみだね。
Nobu ‟Running In My Vein”に関しては終わり方にも岡崎さんのディレクションが入りましてね。少しミスっているように聴こえたという意見があって。
岡崎 あれ、いまだにわからないもん。皆どうやって終わってるの? っていう。
Nobu 僕らもあのときはRecからMixを聴くというフェーズに移っていたので、合ってるのか間違っているのかジャッジできてなかったですね。
Yasuzo 記憶のなかだと、ドラムがイレギュラーに終わったのでそれに合わせていたという感じ、というくらいのノリでしたね。だから後日、〝岡崎ジャッジ〟にしていただいて良かったです。
Nobu ただそれがきっかけで、岡崎さんのディレクションやエフェクトなどがより入るきっかけとなりましたよね。色んなアイデアが出てきたとのことでプロデュースまでお願いするという話が出てきたのですが、振り返ってみていかがでしたか?
岡崎 結果的に僕がサポートするという部分が出過ぎるときもあるから、そこは自分でブレーキをかけるようにしてました。僕危ないんですよ本当に、スイッチ入っちゃうと(笑)。だからバンドを引き立てるときは、そのように意識して気をつけてます。僕が関わってアートとして新しい領域にバンドとしてなるのであれば、アイデアはいくらでも出しますよ。ただ自分から出てきたときは止める僕もいて。出すぎるとまずいなっていう。僕、たまに暴走しちゃうからね(笑)。
それは違うと思うからね。丸投げなら良いけれど、あくまでバンドの世界観のブラッシュアップだとやり方も違ってくるし。僕はそれを念頭に置いてて。
あとは遊びというか色気の部分というか、いかに余白を面白く楽曲を盛り上げていくかということですよね。空間系のエフェクトとかそういうことでね。曲によってこういうタッチがあると活きるよねっていうアイデアを盛り込んで。1曲ごとにドラマがあるから。
バンドによってはアルバム通して同じ音像というのもあるけれど、Hebi Katanaの場合は1曲ごとにテクスチャーが違う。それをどう育てていくかという部分と、最初は音が良い意味で完成してなかったから余白があって、だからアイデアが出たし、それをやり切れたということもあるよね。
実際はこれでも控えめなアプローチなんですよ。あくまで主役はバンドなんでね。修正も最小限ですよ。ミスも味のうちというか。
Nobu それが境界線で、岡崎さんのほうからも「ここから先にいっちゃうとプロデュースの領域になっちゃうから、大丈夫?」とワンクッション入れてくださいましたよね。ただ僕らのなかでは、もう僕らの曲で遊んでくださいと伝えてて。
岡崎 あれは嬉しかったなぁ!
Nobu “Running In My Vein”がきっかけでここまで発展したわけで。それが他の曲にもオルガンやフリもの系も入れてくださって。ギターも入れてます?
Yasuzo かっこいいフレーズがあって、もしや岡崎さん? と思って(笑)。
岡崎 それは入れてないよ(笑)! そこまでは勝手にしませんよ。頼まれたらやるけど。
Nobu 弾いたとしても僕は何も言わなかったと思いますよ(笑)。
岡崎 好みやフレーズのセンスが似てるんだろうね。若いときは俺もこんな感じだったよな、みたいな感覚があって。制作プロセスもあるし、あとはスピード感だよね。
Yasuzo ベースは9曲を2週間くらいで。ギターと歌は4日間ですね。
岡崎 ある意味、締切も決まってて良い緊張感があったということかな。
僕はけっこう余裕もってやらせてもらったんで、ありがたかったですね。普段はエンジニアリングだけだったら、もう少し短期間で仕上げてます。今回はプロデュースとしてっていうのもあり、やりたいようににやらせてもらった印象で。ある意味、飽きないタイムラインとタイミングで関わらせてもらったので、俺の使い方、今回大正解(笑)。
機械的にやってしまうと、単に型にハメるだけでOK出ちゃうこともあるしね。裏方として言わせてもらうと、ミックス時間に少しだけ余裕をつけていただければ、もっとアートとして色をつけられる可能性が生まれるというか。
そのアート感、ロックが好きで、かつドゥームサウンドで。〝Tokyo Samurai Doom〟と称している、そういう色が今回出せたんじゃないかな。
〝Tokyo Samurai Doom〟良いじゃないですか!
Nobu 歌詞もそもそも英語ですからね。かなり和洋折衷だと思いますね。もともと、この呼び名(=Tokyo Samurai Doom)もルーマニアかどこかのウェブジンから拝借しましたしね(笑)。
岡崎 この際、刀用意しちゃったりね(笑)。
Nobu 和のテイストはもう少し間接的に出していきたいですね(笑)。
岡崎 現状が良いバランスだと思いますよ。
Nobu 曲順も結構揉めましたよね。レコードのリリース予定もあるので、A面B面の流れは意識してて。1曲目が何かっていうのが肝で。
岡崎 リードトラックを何にするかということだよね。Mixが終わって、“Dirty Moon Child”のサビが頭のなかで回っててね。ほどよくヘヴィで王道感もあり。
Nobu 僕は“Dirty Moon Child”はまったく1曲目という感じはしてなくて。ただMixを経て、化けて現れてきた感じですね。
岡崎 ディレイかけてて楽しい声なんだよ。気持ちよくハマったよね。
今回、思いっきりアナログ感のある音を狙ってて。そのアナログ感の一番気持ち良いところで聴かせたいというのがあって、少しスパイス的にエフェクトを効かせてね。トラックごとに少しずらしたりとかしてね。そうすると楽しくて終わんなくなっちゃうんだけどね。
Nobu 僕はびっくりでしたね。まさか“Dirty Moon Child”がこうなったかという。Yasuzoさんは“Pain Should I Take”を1曲目にこだわってましたよね。
Yasuzo MV撮影がもう決まってて、プロモーション的にもノリ的にも1stアルバムと違う色を出す意味で推してましたね。
Nobu 僕も同じだったんですが、Mixで“Dirty Moon Child”が大きく化けて。
岡崎 “Pain Should I Take”をリードにすると、いわゆる普遍的なドゥームバンドサウンドのアルバムになっちゃう気がしてね。だからそうしたくなくて。リードに“Dirty Moon Child”をもってこれたんで、あとはどこに置いてもよりヘヴィに聴こえるというか。聴いてもらうのが楽しみですね。
Nobu まもなくリリースされるわけですが(2月23日発売、対談収録日は2月19日)、自分は結構ドキドキしてて。反応が気になりますね。
岡崎 いろんな意見あるからね。音源は自分たちの手を離れたらもう聴いてもらう人のものなので、すべての声を受け入れるというか。楽しみじゃないですか!
Nobu このリリース前の独特の感覚って今だけですからね。今は仕上がったものをどう届けるかというフェーズですからね。音自体は触ってないというか。
岡崎 こうやってつくると、また色んなことが起こってくるからね。行けるとこまで行きましょうよ。この今の世の中の状況でさ。
Yasuzo ぜひ「Impermanence-無常」を聴いてください!
岡崎 このアルバムが何らかのかたちで気持ちいいと思ってもらえたら嬉しいし、このバンドはこれがある意味スタートというか、彼らのドラマはこれで終わりじゃなくてまた次があるんでね。引き続き、ドゥームロックのBPMのように、 長い目で見ていただけたら嬉しいです!
Nobu アルバムはある意味、その当時の真空パックだと思うので、ライブでまた色々変わると思うし、ぜひ楽しんでいただければ嬉しいです!